第83話 色白マッチョ

 木曜の夕方になった。香澄とのミーティングを終え、2人で定食屋を出たところ、突然、カメラのフラッシュを浴びた。



「おい、三枝。 こういう事だったのか。 見たことも無いようなスゲー美女を連れてやがる。 沙耶香を振る訳だ。 俺は、その沙耶香にさえ振られたがな …。 それにしても、ヤボメガネの冴えないツッパリのテメーが、何でモテるのか不思議だ」


 ケインだった。



「ちょっと あなた、イキナリ写真を撮るなんて許せない。 直ぐに消しなさい!」


 香澄も抗議した。



「君さ、凄く可愛いよ! 沙耶香どこじゃねえ、完全に俺のど真ん中だ。 そんだけ美人なら、気が強くても構わない。 なあ、そんな冴えない男は捨てて、俺と付き合えよ。 名前は何て言うんだ?」


 ケインは、優しく言った。



「フン、あなた なんか、まっぴらゴメンだわ」


 

 シュッ


 バタッ



 香澄は、言うが早いかケインの足を払い転ばせた。ケインは、完全に油断していた。


 俺は、チャンスと思い、すかさず馬乗りになって右腕の関節をきめた。



「ギャー、痛てえ。 離してくれ」



「カメラを取り上げてくれ」



「うん」


 香澄は、カメラを取り上げた。



「返せ。 許さないぞ!」


 ケインは、必死に訴えた。



「何か、ヤバそうなものが撮影されてる見たいね。 ウワッ、何これ。 元太さんを盗撮してるわ。 もしかして元太さんが好きなの? キモッ」



「んな訳ねえだろ。 奴に復讐するために調査してたんだ」


 ケインは、強く否定した。



「元太さん。 そいつが悪さできないように、筋を切ったら」



「やめろ、警察に訴えるぞ」


 ケインは、喚いた。



「イキナリ写真を撮ったりして、あなたが犯罪者でしょ。 これから警察を呼ぶわ」


 香澄は、冷静に言った。



「スマン。 許してくれ」


 ケインは、泣きそうな顔になった。


 反省したと思い力を緩めると、一瞬の隙を見て奴は逃れた。



「覚えてろよ!」


 ケインは捨て台詞を吐き、一目散に逃げて行った。



「ねえ、このカメラどうする?」


 香澄は、呆れたような顔をした。



「同じ学校の生徒だから、俺が預かっておくよ」



「それにしても、あいつ 一体 何者なの!」



「4月にアメリカから来て、上等学園高校に入ったんだ。 1学年上の3年生だ。 ケイン田嶋と言って、白人とのハーフだ。 沙耶香さんに言い寄ってるが、俺が邪魔してると勘違いして突っかかって来るんだ」



「上等学園高校って、変わった生徒が多いのね」


 香澄は、ニヤッとした。



◇◇◇



 数日後の事である。香澄から電話があった。


「この前、盗撮してた変態なんだけど、最近、学校の近くで見かけたわ」



「本当か! 香澄さんに目を付けたようだな。 奴は、ボクシングのミドル級で 全米選手権大会に出場経験があると言ってたから用心してくれ」



「私に目を付けた? 気持ち悪いわ。 でも、簡単に足を払えたけど強いの?」



「君に見惚れて、油断したからだ。 甘く見ない方が良い」



「気持ち悪い奴ね。 でも、分かったわ」



「香澄さんは強いからだいじょうぶだと思うが、1人で出歩かないでくれよ」


 

「ねえ、元太さん。 駒場学園高校に転校して私を守ってよ」



「・ ・ ・」


 俺は、言葉に詰まった。



「ふふっ、冗談よ。 運転手が送り迎えするから、だいじょうぶ。 安心してダーリン」

 


「・ ・ ・」



 電話を切られた。



◇◇◇



 翌日の放課後、俺は、ケインがいる3年の教室に向かった。



「ケイン田嶋は、いるか?」


 俺が凄むと、教室内が静まりかえった。そんな様子を見て、沙耶香は下を向いた。



「俺に何の用だ?」


 ケインが、前に出てきた。



「おまえ のカメラを預かってる。 返してやるから少し付き合え」


 俺は、ケインを連れて屋上に向かった。



 屋上に着くと、ケインを睨み付けた。



「何だよ? 怖え野郎だな」


 ケインは、迷惑そうな顔をして、手のひらを見せた。



「ハッキリ言っておく。 俺と一緒にいた女子に付きまとうな!」



「何の事だ?」


 ケインは、薄ら笑いを浮かべた。



「テメー許さんぞ!」


 俺は、声を荒げ凄んだ。



「三枝よ。 おまえは、修羅場を経験してるようだな。 この学校では異質な存在だ。 だがな、俺もアメリカでは、かなりの修羅場を経験してきたんだ。 テメーには負けない。 ところで、女の名前を教えてくれ」



「バカか? 誰が教えるか!」


 俺は、ケインから香澄を守りたいと強く思った。



「あの女、スゲー美女だった。 良い女には、俺のような強い男が似合う。 ふーん、そうか。 彼女の居場所が近いと言う事か」


 ケインは、ニヤケた。



「おまえ、日本語が通じないのか? 彼女に近づくなと言ってんだよ!」



 次の瞬間、ケインの間合いに入ろうとしたが、サッとかわされた。



「危ねえ! 捕まったら敵わねえからな。 それに、学校で喧嘩はマズイだろ。 カメラはくれてやるぜ!」


 そう言うと、ケインは一目散に逃げて行った。俺は、ケインのフットワークの良さに改めて驚いた。



 しばし茫然としていると、弱々しい声がした。


「元太さん」



「沙耶香さん。 何で、ここにいるんだ?」


 俺は、驚いた。



「心配で見に来てしまったの」


 沙耶香は、申し訳無さそうに答えた。



「そうか。 その後、ケインとはどうなんだ?」


 俺は、白々しく聞いた。



「ハッキリと嫌だと言ったわ。 そしたら諦めてくれた。 でも あいつ、最近また来て、 …」


 沙耶香は、黙った。



「どうしたんだ?」



「元太さんに、見た事も無いような美人の彼女がいると言ったわ。 本当なの?」


 沙耶香は、泣きそうな顔をした。



「確かに美人の友人はいるが、付き合ってる訳じゃない。 でも、沙耶香さんには関係の無いことさ」


 俺は、言いながら沙耶香が可哀想になってしまった。



「そうよね。 分かってるわ」


 沙耶香は、下を向いたまま屋上を離れて行った。そんな彼女を見て、俺は落ち込んだ気分になった。


 ふと見上げると、快晴の空に飛行機雲が2本交差しているのが見えた。

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