第17話 根も歯もない噂

 安子は、心配そうに貴子を見た。



「じゃあ、聞くけど。 三枝が、札つきの不良だと知ってた? あいつ、中学時代、裏番長の神野と、ありとあらゆる悪事に手を染めていたって。 あとね、桜井君が、三枝に脅されて困ってるって知ってた?」



「まず、三枝は、不良じゃ無いよ。 冷静に考えて見てよ。 この学校は、全国的に見ても、難関の進学校よ。 不良が合格できるはずないじゃん」



「彼は、頭が切れる悪党よ。 だから、始末に負えないのよ」


 安子は、呆れたような顔をした。



「じゃあ、私の噂は、何て言われてるの?」


 貴子は、不安そうな顔をした。



「三枝に暴力を振るわれたでしょ? あなた、彼に脅迫されて無い?」



「三枝が暴力振るう訳ないじゃん。 根も歯もない噂よ」



「可哀想に。 やっぱり、あなた、洗脳されてるよ」


 安子は、同情するように貴子を見た。



「何で、そうなるの?」



「そうで無ければ、桜井君に振られた腹いせに、三枝とグルになって、彼にに嫌がらせをしてるとしか思えない。 だとしたら、そんなこと止めなよ!」



「それは、逆だよ。 嘘を吐かれて困っていたのは、三枝と私の方よ。 桜井は、安子の事に関しても嘘を吐いていたのよ」



「えっ、嘘を吐いてたって、どんなことよ?」



「桜井は、安子に告白されたと言ってたけど、あれは、逆で、桜井が安子に告白したんでしょ」



「そうよ。 その話しは、貴子が信用しなかったじゃない。 それが何よ!」



「安子、ゴメンね。 あの時は、桜井を信用してたから、あなたが嘘を吐いてると思ったの。 でも、今は、あなたを信じるわ」



「ちょっと待って。 そうじゃ無いでしょ。 桜井君が、嘘を吐くはず無いじゃん。 貴子が嘘を吐いてるんでしょ。 今でも認めないの?」



「そうじゃ無い。 桜井は、確かに安子から、告白されたと言ったのよ。 私は、嘘を吐いて無い。 それに、安子がそこまで言うなら、これを見せるわ。 私は、桜井から告白されて、猛アタックを受けてたんだよ」


 貴子は、涼介から来た、大量のラブメールを見せた。



「これって何? あなた、メールまで偽造するんだ」



「私は、そんな事しない。 日付やアドレスを確認してよ。 正真正銘、桜井から来たメールよ!」



「プログラムに詳しい人なら、偽造は可能なはず。 あなたは成績トップだもの、それくらい出来るでしょ」



「私は、そんな事できないし、嘘も吐いてない!」



「貴子。 あなたは、頭が良いんだから分かるでしょ。 三枝と居たら、皆から白い目で見られるよ。 今なら間に合うから、一刻も早く、彼から離れるべきよ! この噂を聞いて、桜井君も、あなたの事を心配してたよ。



「えっ、安子。 まさか、桜井と話したの?」



「当たり前じゃん。 彼に告白されてから、私たち付き合ってるんだもの」


 安子は、自信に満ちた表情をした。その後、さらに続けた。



「桜井君はね。 酷い事をされているにも関わらず、あなたの事を心配していたわ。 彼は、そう言う人なの。 もちろん、私も、貴子の事を心配してるのよ」



「そうなの。 気持ちは受け取っておくわ」



 貴子は、これ以上言っても無駄だと思った。そして、用意周到な涼介のやり口に驚いていた。また、安子は、ある意味、涼介に洗脳されてると思った。



◇◇◇



 同じ頃、教室での事。加藤が俺を尋ねて来た。


「元太。 少し良いか?」



「どうした?」



「元太は中学からの同級生だから、お前の事を友人だと思ってる。 だから教える」



「そうか、嬉しいぜ。 それで、何を教えてくれるんだ?」



「とある噂だ」



「そうか。 ところで、神野にも報告するんだろ。 その時に、涼介に負けねえと伝えてくれ」



「えっ、さすがは元太だ。 俺が神野とつながってる事を知ってたか」



「そんなの、見れば分かるさ。 神野は、豪快に見えて策士だからな。 奴は、俺の事も警戒してるんだろ」



「まあな。 だけど、神野は、元太の事を信頼してるぜ」



「それも、知ってるさ。 俺も、奴が真のライバルだと思ってる。 それだけに、俺も奴を信頼してる」



「そうか、全てお見通しか」



「ところで、前置きが長くなったが、話って女子の噂話の事だろ」



「えっ、知ってるのか?」



「内容までは知らんが、女子たちが俺を見て、何やらヒソヒソやってたよ。 恐らく、涼介が、女子の取り巻きを使い、俺の悪い噂を流してるんだろう」



「ああ、その通りだ。 元太が札付きの不良で、鈴木 貴子が暴力で洗脳されてると言ってた。 この2人が共謀して、桜井 涼介に根も歯もない言いがかりをつけて脅してると言うんだ。 俺は、中学の時に、桜井 涼介の本性を見て知ってるが、そうで無ければ、奴の言う事を信じるぜ。 厄介なのは、噂が真実のようになって、学校が取り上げた場合だ」



「そんな事か。 涼介らしいやり口だな」



「ところで、鈴木 貴子だが、同学年で成績トップ、おまけに学年一の美人だが、元太とどう言う関係なんだ?」



「ああ。 最近付き合い出した。 もちろん、暴力なんて振るってないぜ。 だけど、俺との噂で学校に居づらくなるなら、付き合いを考えるべきかもな」



「切ないな。 元太、桜井に負けるなよ!」



「ああ」



 俺は、ひとこと答えた。

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