第4話 細木の姉

「おい、細木。 現場に案内してくれや!」


 神野は、厳しい表情で細木を見た。



「うん。 あいつら、ゲームセンター宝島にいるはずだ。 いない場合は、カラオケボックス美優にいると思う」



 細木が言うと、俺は口を挟んだ。



「ちょっと待て、その前に詳しく話を聞かせてくれ。 細木と言ったな。 お前の姉はいつから、連中と付き合うようになったんだ? 最初は拉致同然に連れて行かれたと言ったが、どんな状況だった?」


 俺は、細木を見た。



「姉は、勉強が出来るから上等学園高校に通ってるんだ。 勉強ばかりしてるから、普段はあまり出かけない …」



「えっ。 ちょっと待て、俺と同じ高校だ。 姉の名前は何て言うんだ?」



「沙也加だよ。 弟の僕が言うのもなんだけど、結構、美人なんだ」



「2年の、細木 沙也加だったのか! 知ってるぞ。 結構ファンもいるはずだ。 それで?」


 俺は、細木に続きを話すよう促した。



「先週の日曜に、中学の時の同級生の橘 由香に誘われて出かけたんだ。 橘とは高校に入ってから交流がなかったのに突然誘われたみたいだ。 その日、帰ってから凄く深刻な顔をしていた。 それで、何かあったのかと聞いたけど言わないんだ。 普段、家で勉強するから、あまり出かけなかった姉が、水曜の夕方から、毎日外出するようになった。 不審に思い尾行したら、例の大学生3人と一緒にいるところを見たんだ。 男達は、嫌がる姉の手を引っ張ってカラオケボックス美優に入って行ったけど、僕は勇気が無くて助けられなかった。 姉が帰ってから問い詰めたけど、涙を流すだけで何も言わないんだ。 しかも、それでも出かけるのを止めない。 何か脅されてるんじゃないかと思ってる」



「夜は、何時頃に帰るんだ?」



「少しずつ遅くなってるけど、昨日は夜の8時に帰って来た。 親には図書館で勉強してたと嘘をついてた」



「そうか、まだ傷は浅そうだな。 誘ったのは、橘 由香と言ったか?」



「うん」



「恐らく、そいつが、お前の姉を奴らに提供したんだろう。 それで、大学生の連中は、どんな奴らだ?」



「遊び人風って感じで、チャラチャラしてる。 姉が最も嫌いなタイプなんだよ」



 細木は、泣きそうな顔をした。



(こいつ、完全にシスコンだな)


 俺は思った。



「おい、元太、早く行こうぜ! 逃げられちまうぞ。 久しぶりに、お前がいるから、喧嘩したくてウズウズしてるんだ!」



「よし、分かった。 それにしても許せねえ奴らだな!」


 俺は、思わず口にした。



「俺も、思いっきりやるぜ!」


 角坂も、大声を上げた。

 


 俺達、4人はゲームセンター宝島に向かった。



◇◇◇



 ゲームセンターに入ると、いかにも悪そうな連中が睨んできた。



「おいっ、俺に文句あるのか!」


 神野が睨み返して凄むと、皆、下を向いておとなしくなった。



「あっ、神野さん。 どうかしたんすか?」


 奥から、最高に悪そうなのが出て来た。



「ああ、白井か。 チャラチャラした、大学生位の男3人を見なかったか?」



「ついさっきまでいたけど、何処かへ行きました。 バカそうな連中でしたが、女を3人も連れてました。 その中の2人の女が綺麗だったんで、因縁をつけてやろうかと思ったんですが、目を離した隙にどこかへ行っちゃいました」 



「ところで、女の様子はどうだった?」



「綺麗な2人は暗い顔をしてたけど、残りのパッとしないのは、明るくはしゃいでました。 神野さんの知り合いだったんですか?」



「訳ねえだろ。 まあ、懲らしめようと思って来たがな。 わりい、次へ行くわ」



 俺たちは、カラオケボックス美優に向かった。



「いらっしゃいませ、4名様ですか?」



 俺たちの目的は歌うことでないが、取り合えず部屋に入った。すると細木が言った。



「あっ、姉さんの声がする!」



 細木に案内され、6番の個室の前に来た。



「細木、ここで間違いないか?」



「間違いない。 姉さんがいる」



 そっと中を覗くと、若い男が3人、若い女が3人の計6人がいた。


 細木の姉の顔は知っているので、直ぐに分かった。チャラチャラした男に肩を抱かれ歌わされていた。顔を背けているので嫌がっているのは間違いない。他の女も1人は嫌がっているようだ。但し、残りの女はノリノリで楽しんでいる。こいつが、橘 由香だと直ぐに分かった。


「おいっ、神野。 どっちが行く」


「お前が行け。 俺は出て来た奴を仕留めるから。  角坂は、通報されないように見張ってろ!」



「ああ、分かった。 おい、細木も見張れ」



「うん、分かったよ」



 4人の役割が決まった。これから修羅場が始まる!

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