74 今までの種明かし その2 父の登場

「貴方、いつまでそうやって隠れているつもり?さっさと出てきたらどうなの?」


突然母が扉の方を向いて誰かに向かって声を掛けた。すると・・・。


「お・・・お父さんっ?!」


ふらりと部屋の中へ入ってきたのは半年ほど前からこの屋敷を出て別の領地で仕事をしていた父だった。


「ど、どうしたの?突然帰ってくるなんて・・あと数年は仕事でこっちへ戻ってこれないと言っていたはずなのに。」


私は父に尋ねた。


「い。いやあ・・・そ、それが・・・・。」


父はバツが悪そうに頭をかいている。一方の母は父を肘でこずきながら言う。


「あなた。早くテアに謝りさないっ!」


「テ・・・テア・・・す、すまなかった!父さんを・・・・どうか許してくれっ!」


すると父は突如床にひざまずくと私に土下座してきた。


「ええっ?!お、お父さん?!な、何してるのっ?!」


すると父は頭を上げると言った。


「テア・・本当に申し訳なかった。私が10年前にヘンリーの両親にカジノで騙されて・・・身ぐるみはがされそうにり・・どうしようもなくなって、とっさにお前をこんなろくでもない男の許嫁に差し出してしまったんだ!」


父はいつの間にか両手を後ろに縛られ、床に転がされているヘンリーを指さしながら言う。


「お、おじさんっ!ろくでもないって誰の事だよっ!」


床に転がったヘンリーがわめく。


「うるさいわねっ!ヘンリーッ!あんたの事に決まっているでしょうっ?!今まで私の大切なテアに散々酷い事をしてきて・・・!絶対に許さないんだからねっ?!」


キャロルは私の手をしっかり握りしめながらヘンリーに文句を言う。しかしヘンリーはその言葉に動ずる様子もなく、芋虫のように転がったまま父を怒鳴った。


「おじさんっ!この俺にこんな事していいと思っているのかっ?!10年以内に返さなければならなかったはずの借金を・・・返済しなかったくせにっ!約束不履行として裁判所に訴えてやるぞっ!そうすればこの家ももう終わりなんだからなっ?!」


すると・・・。


ダンッ!


母が突然ヘンリーの頭スレスレにハイヒールの履いた足を乱暴に床の上に振り下ろした。


「ヒクッ!!」


ヘンリーが恐怖でしゃっくりをした。そんな恐怖で震えながら見あげる彼に母は怒りのまなざしでヘンリーに怒鳴りつけた。


「おだまりっ!終わりなのは・・ヘンリー!むしろお前たちの方よっ!今頃お前の両親は詐欺罪で警察に店に踏み込まれて逮捕されているはずよ!」


「な、何だってっ?!」


ヘンリーは目を白黒させながら言う。でも、ヘンリーの今の気持ち・・・私にはよくわかる。今回の騒動の中心人物である母もキャロルも状況を踏まえているのは勿論のこと、一連の出来事を引き起こしてしまった父だって、現在の状況を理解しているのは分かり切っている。一方の私は1人蚊帳の外状態なのだから。


「ねえ・・・キャロル・・。」


私はいまだに手をしっかり握りしめているキャロルの方を向くと声を掛けた。


「あら?何かしら?テア。」


キャロルはにこにこしながら私を見る。


「あのね・・私には何のことか、いまだに状況が良く分からなくて・・一体どういうことなのか教えてもらえるかしら?」


「ええ、お安い御用よ。だってテアには知る権利があるものね。それじゃ場所を移しましょう?テアのお部屋で話しましょうか?」


キャロルに促されて、私は頷いた。


「ええ。そうね・・そうしましょう。それじゃ、お父さん、お母さん。私はキャロルと話してくるから・・後をよろしくね?」


「ええ、ヘンリーのことなら任せて頂戴。」


母はヘンリーを一瞥すると頷いた。


「済まなかったな・・・。テア。私がふがいないばっかりに・・。後は父さんが始末しておいてやるからな?」


するとヘンリーが焦ったようにわめいた。


「お、おいっ?!テアッ?!勝手によろしくするなよっ!お、お前・・・こんな状況の俺を置いてこの部屋からいなくなるつもりか?!お前俺の許婚だろう?この両親を何とかしてくれよっ!お前の両親だろうっ?!こ、このままじゃ・・俺は2人に何をされるか分からないじゃないかっ!」


その言葉を聞いた私は歩きかけた足をピタリと止めて振り向いた。


「ヘンリー。」


「なんだ?テア。」


ヘンリーの顔に安堵の表情が浮かぶ。


「私たち・・・もう許婚じゃないから。」


「え・・・?」


見る見るうちにヘンリーの顔に絶望が宿る。どこまでも愚かな人だ・・・。私はそんなヘンリーを一欠けらの愛情も持たない目で見るとキャロルに言った。


「お待たせ。キャロル。それじゃお部屋に行きましょう?」


「ええっ!さすがは私のテアね?」


キャロルは嬉しそうに言う。私たちは腕を組んで部屋へと向かった。


そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。












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