52 深まる?謎

 2限目の講義も終わり、次の教室へ移動する為に机の上を片付けていると、前の席に座っていたニコルが振り向いて声を掛けてきた。


「テア、キャロル。次の講義は何だい?」


私とキャロルは顔を見合わせ、キャロルが答えた。


「次の講義、私達は歴史学なの。」


「へぇ~・・それはすごい偶然だな?実は俺もそうなんだ。一緒に行かないかい?」


「ええ、いいわよ。」


私が返事をし、キャロルが頷いたその時・・ニコルが口を開いた。


「ヘンリー・・。」


「え?」


その言葉に思わず私が振り向くと少しだけ距離を空けてヘンリーが立っていた。しかし、キャロルは振り向きもしない。


「テア・・話が・・・。」


するとにべも無くキャロルが言う。


「駄目よ、テア。聞く耳を持っては。」


「え?!」


私はキャロルの言葉に耳を疑った。一体・・本当にたった数日で・・私の知らない処で何が起こったのだろう?母は今までヘンリーの事に対し、特に口を挟む事も無かったのに、害虫駆除だとか言って追い出したようだし、キャロルはてっきりヘンリーに恋をしているかと・・少なくとも最初の頃は私の目にそう映ったのに、今では手のひらを返したかのように冷たい態度を取って来る。

そしてヘンリー。彼だって私の事を軽視して沢山冷たい態度を取って来たのに・・何故、今になって物言いたげな目で私の事を見るのだろう・・?

分らない・・・一体、今私の周囲で何が起こっていると言うのだろう・・?


「どうしたの?テア。ヘンリーの言葉に耳を貸しては駄目よ。」


思わず考え込んでしまい、キャロルの言葉でハッとなった。


「テア・・俺も一緒に行って・・・いいか?」


ヘンリーはためらいがちに声を掛けて来る。


「駄目よ、貴方はテアを傷つけるだけの存在なんだから。」


キャロルが言う。


「さ、行きましょう。テア、ニコル。」


「ああ、そうだな。行こうか・・。」


そしてニコルが言った。


「ヘンリー。しつこい男は嫌われるぞ?」


「!」


その言葉にヘンリーは肩をビクリとさせ、言った。


「ち、違うっ!俺はただ・・・テアに伝えたい事が・・。」


「え?伝えたい事・・・。」


思わずヘンリーの方を振り向くと、キャロルに止められた。


「テア、遅くなるから・・行きましょう。」


「ああ、そうだな。席も無くなるかもしれないし・・・行こう。」


ニコルもキャロルに賛同する。


「え、ええ・・・分かったわ・・・。」


2人に促されたので私はカバンを持って立ち上がり、ヘンリーに背を向けて歩きかけた時・・・。


「テアッ!キャロルは・・・!」


しかし、キャロルがヘンリーの方を向いた途端、ヘンリーは口を閉ざしてしまった。

え?ヘンリー・・今、キャロルの何を言おうとしていたの?だけど・・。


「ほら、行こう?テア。」


キャロルが私を見てにっこり笑う。


「ええ・・・そうね。」


私が今優先するべき相手はキャロルだ。それにヘンリーと縁を切る事を母も望んでいる。だから私はヘンリーを振り返ることも無く・・3人で並んで次の教室へと移動した・・。




****


 5人掛けテーブル席で私はキャロルとダイアナと3人で学食で昼食を食べていた。ニコルは親しくなった男子学生達と別のテーブル席に座っている。


「ふう~・・・今日の講義は中々大変だったわ・・・。」


熱々のグラタンを食べながら私は言った。


「そうね、今日の講義はハードだったわ・・・。」


キャロルはホットサンドを口にしながら言う。


「2人は大変な授業だったみたいね?私は今日の講義は楽だったわ。」


待ち合わせしていたダイアナはシチューを食べていた。するとそこへ昼食の乗ったトレーを手にしたフリーダとレオナが通りかかり、私達に気が付いた。


「あら、テア。キャロル。こんにちは。」


フリーダが言う。


「まあ、偶然ね。」


私は2人を見上げると言った。


「「こんにちは。」」


キャロルとダイアナが声を揃える。


「ねえ、ここ空いてるなら・・座ってもいい?」


レオナが尋ねてきた。


「ええ、いいわよ。どうぞ?」


私が返事をするとフリーダとレオナが席に座り、すぐに声を掛けてきた。


「ねえ・・・あそこのテーブルに1人で座っているの・・ヘンリーでしょう?テアがヘンリーと一緒にいないのは珍しいわね?一体どうしたの?」


見ると、私達から3つ離れたテーブル席でヘンリーは此方を伺いながらハンバーガーを食べていた―。


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