46 母と娘の会話

「ただいま帰りました。」


エントランスを開けて中へ入るとすでに使用人は休んでいるのか、出迎えたのはナイトドレスにガウンを羽織った母だった。


「お帰り、テア。どうだったの?キャロルの寮は?」


「ええ、すごく快適そうなお部屋だったわ。ルームメイトの女子学生もすごく感じ良かったし。」


「まあ・・それは良かったわね。ところでテア。食事はどうしたの?」


「あ・・実はまだ食べていなくて・・・。」


「そうなのね?多分まだなんじゃないかと思って、ダイニングルームにサンドウィッチを用意しておいたのよ。食べるかしら?」


「ええ。もちろん食べるわ。」


そして私は母と一緒にダイニングルームへ向かった。




 ダイニングテーブルには母の言葉通りにサンドウィッチが用意されていた。しかも私の好きなミックスサンドだった。


「ありがとう、お母さん。」


笑みを浮かべて椅子を引くと席につき、私は早速左手を伸ばしてサンドウィッチを食べ始めると、母も何故か私の向かい側に座る。


「・・?」


何だろう?私に何か用でもあるのだろうか?


「テア・・・。」


不意に母が呼んだ。


「何?」


「今日1日ヘンリーはどうだったのかしら?」


「あ、その事なんだけど・・ヘンリーは家のエントランスで背中を打ち付けて怪我をしてしまったので1日中医務室にいたらしいの。何かお見舞いした方がいいのかしら?」


ヘンリーとは距離を置こうと思っていたけれども、怪我のお見舞いはするべきなのだろうか?何しろ怪我をしたのは我が家なのだから・・・。

母なら何と答えるだろう?そう思って尋ねたのだが・・・。


「ふ~ん・・そうだったの。でも別に放っておけばいいのよ、自業自得なんだから。それに・・。」


母はジロリと私を見ると右腕を指さした。


「貴女だって怪我をさせられているのよ?」


「あ・・こ、これは・・・でもヘンリーはわざとじゃないし、こんな事になったのは今回が初めてで・・・。あっ!」


そうだ、母に嘘をついたことを謝らなくては。


「ごめんなさい、お母さん。私は嘘をつきました。この腕の怪我は・・・。」


「ええ、聞いたわ。学園長から直々にお電話を頂いたから・・・。それなのにテア、貴女は自分で怪我したというし・・だからヘンリーの家に電話をかけて確認したのよ?正直に言わないと親に連絡を入れるだけじゃなく、大学を辞めさせてもらように学園長に進言するわよって言ってね。」


母の言葉に私は驚いてしまった。


「え?ちょっと待って?どうしてお母さんが学園長にそんな事言えるの?」


「テア・・・貴女には言ってなかったけど・・あの大学の学園長は私の叔父にあたる人なのよ。何年か前に代替わりして、叔父が学園長を務めることになったの。」


「そ、そうだったの・・?知らなかったわ・・。」


「フフフ・・・そしたらヘンリー。電話口で震え上がっていたわ・・。いまだに両親が怖いのね?それで今日、謝罪に来たのよ。でも・・・あれではまだまだ駄目ね・・。誠意のかけらも感じられなかったわ。テア・・・本当にヘンリーがいいの?」


母はヘンリーとの仲は切ってもらいたかったんだ・・・。そこで私はキャロルとヘンリーの事を母に話すことにした。


「その事なんだけど・・・ヘンリーに好きな女性が出来たのよ。」


「あら?そうなの?相手はどんな女性なのかしら?」


母はさほど驚くこともなく紅茶に口をつけた。


普通に聞き入れている・・というやはり反対していたんだ・・。ヘンリーと終わりにしなければならない寂しさを胸に秘めつつ、私は言った。


「あのね、ヘンリーが好きな女性は何とキャロルなのよ?そしてキャロルもヘンリーの事が好きみたいなの。だから・・・私、2人の仲がうまくいくように応援しようと思って。」



「ブッ!!」


すると・・・私の言葉を聞いていた母が口に含んでいた紅茶を噴出した―。










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