41 ばれていた嘘
「昨日・・・あれから・・?」
何か変化があっただろうか・・?あ!
「ええ、そうね。ニコルの言う通りあったわ。」
「何があったんだい?」
「それがね、ヘンリーが・・・今朝馬車で迎えに来たのよ。しかも何故か私の腕の怪我の事も、自分のせいで怪我したことも知っていて・・。それで花束を持って謝罪に来てくれたの。全て初めての事だったから驚いたわ。そして・・・・」
そこで私は言葉を切った。そうだ・・・。ヘンリーが背中を痛めてしまったから馬車の中で話が出来なかったけれども・・どうしてヘンリーはあんなに母を恐れていたのだろう?
「何?まだ何か他にあったのかい?」
ニコルが先を促して来た。
「後は・・ええ、そうね・・。妙に私の母に怯えていたわ。すごくビクビクしていたの。」
「そうか・・・やっぱりな・・。」
「何?やっぱりって?」
「テアとヘンリーはこの大学の併設の高校から入学してきたんだろう?」
「ええ。そうよ。」
「それなら・・知り合いはこの大学に大勢いるよね?」
「そうね。大体学年の過半数はみんなこの大学に入るから。」
「それじゃ、今俺たちのいるCクラスにも知り合いがいるだろう?」
「ええ。いるわ。オリエンテーションでもらった名簿に知ってる人たち何人もいたもの。」
するとニコルが言った。
「実は昨日、放課後学園長に用事があったから学園長室を訪ねたんだ。すると部屋にの中には先客がいて、窓が開いていたから会話が聞こえてきたんだよ。」
「会話・・?いったいどんな会話だったの?」
「どうも、テアが学食でヘンリーに強く腕を握られて怪我をさせられたらしいって。彼らは同じCクラスの学生だったんだろうね?テアが痛がっていた時はそこまで酷い怪我だとは思わなかったらしいんだけど・・・俺と一緒に教室へ戻ってきたとき、腕が今みたいになっていただろう?」
ニコルは私の三角巾でつられている右手を指さしながら言う。
「あ・・・・。」
「それで、彼らは驚いて放課後に学園長に報告に言ってたんだよ。その会話が全部筒抜けだったんだ。そうしたらそれを聞いた学園長がテアの家に電話を掛けるって言ってたんだよ。」
「え?!」
「そ、そんな・・・それじゃ私が帰宅したときには本当は母は私の怪我の原因を知っていたのね・・?」
私は顔が青ざめていくのを感じた。
「テア・・・やっぱり親に言わなかったんだね?ヘンリーに腕をつかまれて怪我をした話。」
「ええ・・・・。ヘンリーには悪気は無かったと思ったし・・大事にしたくなかったの・・。でも、こんな事になるなら・・本当の事話しておけばよかった・・。」
それじゃ、ヘンリーに私の怪我の事を話したのも・・おそらくは母だったのだろう。ヘンリーは話の流れから事実を認め・・・それで母は激怒してヘンリーを怒った・・?でもそれにしてもヘンリーの怯え具合は尋常では無かった。
いつの間にか教室はすっかり誰もいなくなっていた。するとニコルが言った。
「テア、君も外国語を選択しているんだろう?俺も同じ講義を取っているんだ。一緒に行こう。カバン持つから。」
「ありがとう、ニコル。」
ニコルにカバンを渡すと、私たちは並んで第2教室を目指した。
ああ・・それにしても気が重い。母に嘘をついてしまったのだから・・・。
歩いてると、ニコルが声をかけてきた。
「大丈夫かい?テア・・顔色が冴えないけど・・?」
「ええ・・・。母に私の嘘がばれてしまったのだと思うと・・家に帰るのが怖くて・・・。」
「テアのお母さんは怖い人なのかい?」
「いいえ。今までは怖くない人だと思っていたのだけど・・・。でも本当は怖い人だったのかもしれない・・。」
昨夜から今朝にかけての母は・・・いつもとは様子が違って見えた。
ひょっとして・・・あれが本来の母の姿だったのだろうか―?
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