12 2人の為に

 翌日―


明日から大学が始まり、キャロルの寮生活が始まる。私はキャロルと2人で寮に運ぶ荷物の準備をしていた。


「本当にこのお部屋・・・私の部屋にしておいて貰っていいの?」


キャロルが遠慮がちに尋ねてきた。


「ええ、勿論よ。だって毎週末貴女はこの屋敷に戻って来るのだから、お部屋を用意しておくのは当然でしょう?」


「でも・・結局おじ様には会えなかったわ・・・。」


キャロルが残念そうに言った。その首元には昨日ヘンリーがプレゼントしてくれたネックレスがぶら下がっている。


「仕方ないわ。お父さんは今別の領地でお仕事しているから・・でも半年後には帰ってくるわよ。」


私はキャロルに言った。その時―


コンコン


部屋のドアがノックされた。


「どうぞ。」


「あの・・ヘンリー様が・・お見えになっているのですが・・・。」


メイドが顔を覗かせ、私では無く、キャロルをチラリと見た。


「ヘンリーはキャロルに会いに来たのかしら?」


私が尋ねるとメイドが申し訳なさそうに言う。


「ええ・・・そう・・です・・。」


「キャロル、どうする?ヘンリーが貴女に会いに来ているそうなんだけど・・。」


「あ・・わ、私は・・。」


キャロルは俯いている。その様子から・・私はキャロルは本当はヘンリーに会いたいのだと理解した。


「キャロル。荷物整理なら・・私がやっておくから行って来たら?」


「え・・?で、でも・・・。」


「だってヘンリーは貴女に会いに来ているのだし・・それにそのネックレス、付けている所を見せてあげれば、きっとヘンリー喜ぶと思うわ。」


するとキャロルが尋ねてきた。


「テアは・・ヘンリーが喜ぶ姿を見たいの?」


「ええ、見たいわ。と言うか・・ヘンリーには幸せになって貰いたいと思ってる。」


そう、私ではヘンリーは幸せになれないだろうけど・・きっとキャロルとなら・・。


「あの、それじゃ・・着替えるから少し遅くなるってヘンリーに伝えて来てくれる?」


キャロルが出かける気になってくれた。


「ええ、それじゃ・・・伝えて来るわ。」


ついでに昨日の事も謝っておこう。私は立ち上がるとヘンリーがいるエントランスへ向かった―。




****


「ヘンリー。」


私がエントランスへ行くと、そこには今までにない位、お洒落な恰好をしたヘンリーが立っていた。そして露骨に嫌そうな顔を私に向けて来る。


「何だ・・・テアか。どうせキャロルとは会えないって伝えに来たんだろう?お前が引きとめているのは分ってるさ。」


ヘンリー・・・。

機嫌が悪い姿をもはや隠そうともしない彼。その姿を見て私は思った。やっぱり・・今まで私は相当彼に窮屈な思いをさせていたのだと。


「いいえ、大丈夫。キャロルは来るわ。今貴方と会う為に着替えている所よ。」


「え?そうなのか?」


途端にヘンリーの目が輝く。


「ええ・・処で昨日はごめんなさい。貴方に・・・色々不愉快な思いをさせてしまったようで・・。もう貴方に迷惑はかけないと誓うわ。」


「・・何企んでるんだ?」


ヘンリーは疑わし気な目で私を見る。


「別に企んでなんか・・・。私はただ、キャロルは大切な親友だし、ヘンリーには今まで私のせいで嫌な思いをさせてきてしまったから・・・もう貴方に迷惑をかけるのをやめようと思ったの。今まで貴方を振り回してごめんなさい。」


「・・本気で言ってるのか?」


ヘンリーの態度が少し軟化した。


「ええ、本気よ。キャロルを・・どうか宜しくお願いします。」


そこまで話した時、ドレスアップしたキャロルが現れた。首には昨日ヘンリーがプレゼントしてくれたネックレスを付けている。


そんなキャロルを眩しそうに見つめながらヘンリーが言った。


「キャロル・・とっても綺麗だ。」


「そう?・・ありがとう。」


キャロルは嬉しそうに言う。


私はそんな2人から視線をそらせると言った。


「それじゃ・・楽しんできてね。」


するとヘンリーが声を掛けてきた。


「テア・・。ありがとう。」


と―。








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