第27話 王太子殿下との密会(5)
「ありがとう! お兄様っ!」
「おい、離せ! そういうのは、貴族の淑女がするモノではないっ!」
ラインハルト様に会えると、確約を貰ったことで私は思わず、椅子から立ち上がり、お兄様に抱き付いていた。
お兄様は、私を必死に引きはがすと深く、それは本当に深く溜息をつく。
「とりあえずだ。ラインハルトと会う為の手筈を整える。お前は、それまで余計な行動を取るなよ?」
「はい! それで、何時頃に会えますか?」
お兄様は、基本的に言った事は守るタイプの人。
しかも魔法師団団長というイグニス王国でも、もっとも魔法に長けた人物で、それなりの権力も持っている。
なので、お兄様が約束してくださったラインハルト様と会わせてくれるというお言葉は信じても大丈夫。
……たぶん。
「そうだな。王宮側に根回しも必要だからな。2日は、待ってくれ」
「分かりました」
「ずいぶんと素直なんだな」
「ここでゴネても事態が良くなるような事はありませんから」
「そうだな。それと聖女に関してだが――」
「それに関しましては、ラインハルト様を救う手段を幾つか持っておきたいと思っておりますので、取り下げるつもりはありません」
「……そうか」
それに枢機卿や教皇様にも無理を言って迷惑をかけてしまっている訳ですし、さらに言えばラインハルト様を救う手段として聖女としての身分が必要な訳で、それを手放すつもりなんてありません。
お兄様も、それを知っているからこそ聖女に関しては私への説得は無理だと割り切っているから、あっさりと引いてくれたのでしょう。
「――さて……」
お兄様が、私を引き上がすと椅子から立ち上がる。
「お兄様?」
「今から王宮へと戻る。その際に、王宮側へ報告をしておく。お前は、なるべく屋敷の外には出ずに健やかに過ごしておくように」
「……分かりました」
「それでは、またな。クララ」
「お気をつけて、お兄様」
その後は、馬車で王宮へと向かう為に屋敷の敷地から出ていくお兄様を見送ったあと、お母様と夕食を摂る事になった。
「クララ、何か良い事があったのかしら?」
「いえ。特には何もありませんでした」
「そう、なら良いのですけれど……」
食事の最中に、何か思うところがあったのかお母様は私に問いかけてくるのだけれど、ラインハルト様に会える目安がついたということを伝えるつもりはない。
あくまでも、ラインハルト様に会えるという事実は一人だけの胸中に仕舞っておきたいから。
そうしないと、何かあった時に、家に迷惑が掛かる事になるし、そうなったら何のために教会の権威を利用しようと動いたのか分からなくなってしまうから。
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