あのときはこうだった(シュウ)
イルカなんか本当のところ二の次三の次の動機だ。一番には花火をやるためだ。ロケット花火を五十本束ねて火をつけたらすげーことになるんじゃねえか? ハリウッド映画みてえな映像がとれんじゃねーか? とか靖が言い出したからだ。
だけどそんな理由警察に言えないじゃないか、心象が悪くなることは分かりきってるんだから。
だから僕は事件直後靖に、こういう方向で話をまとめるように勧めたんだ。この表情からするに、彼は忘れてるんだろうけど。
「……イルカの話なんかしたっけか?」
したよ。頼むからそこだけは覚えててくれよ。じゃないと話の骨格が前提から崩れるじゃないか。警察に突っ込みまくられることにでもなったら、君、絶対誤魔化しきれないだろ。次から次にボロ出すだろ。その結果は僕にも降りかかって来るんだよ。
「うん、した。間違いなくした。イルカを見に行ったんだよ、僕らは」
とにかく肝心なのは、貴人がいなくなるにいたる流れだ。そこは絶対間違えないように、靖の頭に叩き込んでおかなきゃいけない。
………………
僕達は、海の中に入りました。勿論、沖合いまで泳いで行こうとしていたわけじゃありません。足が立たなくなるところまで行くのは止めておこうっていうことに決めていました。もし水中にスマホや水中カメラを落としたら、見つけられなくなると思ったからです。
月が出ていたといっても、やっぱり暗かったし。
………………
貴人が沖合いに流されていった場面を僕は見ていない。見ることが出来なかった。海底まで潜っていたから。
どうして潜っていたかというと、人の姿に戻るためだ。
あの時は本当に焦った。よりにもよって貴人が近くにいるところで本性が出てしまうなんて。
もちろんモロに出したわけじゃない。貴人が気づかなければそのまま流せたんだ。だけど貴人は靖よりずっと神経が細かいというか勘がいい人間だから、こっちも誤魔化しきれず、つい強硬手段に出ることになっちゃったんだよなあ。
………………
でも、離岸流にはまっちゃって、それに足をとられてスマホも落としちゃって、探そうとしたらますます流れにはまっちゃって。
はい、三人ともそうでした。
その時のことを僕はよく思い出せません。溺れないように必死でしたから。陸に戻ろうって、そのことしか考えてなくて、他の二人のことは見ていませんでした。
………………
このあたり、僕にとっては作り話だ。でも、靖にとっては実話だ。
実際流れに巻き込まれて溺れそうになっていた。僕が海底から戻ってきたときには。
その時点で貴人は、遠い沖合いへ流されていた。
それを追いかけることは出来なかった。僕には必要ないことだったけど、救助の人間がやってきたから。
どうしてああいうことになったのか疑問だ。
僕は貴人をちゃんと陸へ上げて、それから潜っていったんだ。何事もなければ彼が自分で海へ入るはずはない。あの状態で自発的に動くわけがないのだ。僕の両親と一緒で。
………………
もう駄目だと思ったとき、岸のほうから人が助けに来てくれました。僕と靖をボートに引き上げてくれました。
スマホと水中カメラはどこに行ったのか分かりません。まだ海に沈んでいると思いますけど。
………………
僕は貴人の水中カメラを粉々に壊して海の深みに捨てた。何が映っているか分かったものじゃなかったからだ。
上に上がるとき隆人のスマホが沈んでいくのが見えたから、それも粉々にして深みへ捨てた。
二人の持ち物が無くなったのに僕の持ち物だけがあるのもおかしいから、ついでの僕のスマホも破壊して捨てた。
何があっても後から発見することが出来ないように。
それにしても僕がいない間、靖は何をしていたのか。引き上げられ助けられた後真っ青になって、しばらく物も言わなかったけど。
どうにもあやしい。
彼も、何か見たのではないだろうか。何か知っているのではないだろうか。そのことはずっと思い続けている。機会さえあれば、はっきりさせたいとも。
「とにかくこういうことだったから、警察に何か聞かれたら、これと同じように言ってくれよ、靖。僕も同じように言うから。明日刑事が来たときに」
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