シュウ、一難プラス一難
相当まずいと今僕は言ったが、それはかなり弱めた表現だ。
ぶっちゃけてとてもまずい。おおいにまずい。最大限まずい。靖だってそうだろうが、僕側のほうが輪をかけてまずい。
(靖のところに警察が来たというなら、確実に僕のところにも来る)
手のひらがじっとり濡れてきた。
矢も立てもたまらなくなってきた僕は、靖へ、立て続けに尋ねる。
「靖、今どこにいるんだ? 家?」
「ちげーよ、ゲーセンだよ」
なるほど確かに、後ろのほうでそれっぽい騒音がする。
「ゲーセンにケーサツが来たわけ?」
「そうだよ。すぐ帰って行ったけどな。近いうちにまた改めて連絡するとか言いやがってよ――」
どうやら警察は、修の行動パターンを把握しているらしい。じゃなきゃゲーセンにいるところに都合よく顔を出してこないだろう。最初から待ち伏せしていた可能性が高い。修は気づいていないみたいだけど、
ということは、僕の行動パターンも把握されていると考えておかしくない。
僕は修のようにあっちこっち遊び歩くようなことはしないから、待ち伏せするとしたなら、学校か、もしくは。
(自宅……おいおい、やばいよそれは!)
手のひらだけではない、背中にまで変な汗が滲み始めた。
僕は急遽、靖との会話を切り上げる。
「靖、ちょっと、ごめん、切るよ――また一時間くらい後で電話するから! 必ず!」
電話を切った後、再度自転車に飛び乗る。自宅目掛け漕ぎまくる。
ああ、何て遅いんだろう。もどかしい。本来の姿になればもっと早く家に戻れるのに、
(でも人目もある真昼間に、そうするわけには行かないし)
とりあえず例のコンビニがある道筋は最大限避け、遠回りのルートを取る。広瀬アヤたちに鉢合わせしたら、時間をとられること確実だから。
道を幾つも折れながら坂を上って、橋を越えれば見えてきた。高齢世帯集積地である市営アパートが林立する、寂れ気味な一角が。
そこにある何の変哲もない中古の一軒家が、僕の家――角を曲がってその手前まで来たところで、僕は目を疑った。
刑事らしき人間が家の前にいる、まではいい。想定内だ。
しかしそれに加え、広瀬アヤとその友達二人がいるとは一体。
広瀬が目ざとくこっちを見つけ、手を振ってきた。
「あ、シューくーん!」
……彼女が持ってるの、僕の鞄だ。
どうも五十嵐が、僕んちの住所を教えたらしい。
「シューくーん!」
二回も呼ばれた。
こうなると無視するわけにもいかない。
僕は、曖昧に手を振って返す。気づけばタイヤの部分が襤褸切れになっている自転車から降りて。
広瀬は走ってきた。陸上部だけあって、いいフォームだった。
「これ、忘れていったでしょ。はい♪」
鞄を渡し、満面の笑顔。
多分この光景傍から見れば羨ましがられる類のものなんだろうとぼんやり思いながら、僕は、鞄を受け取るしかない。
「ああ……ありがと」
彼女の友達二人は僕達を眺めてニヤニヤしている。
「シューくん。よかったらさ、陸上の練習見に来てよ。夏休みの間もずーっとやってるから」
僕には分かる。これは勧誘ではなく強制だということが。
彼女はすでに、こちらの所在を突き止めたのだ。是が非でも、引きずってでも僕を、陸上の練習に連れて行くつもりに違いない。
「それじゃ、また明日ね♪」
不吉な言葉を残して、広瀬は友達二人と去っていった。
(……果てしなく面倒なことになった……)
頭を抱えたくなる僕に、痩せぎすで、どことなく犬みたいな顔をした刑事が近づいてくる。
「今のは彼女か、南川くん? 随分学生生活を満喫しているんだなあ――」
全然違うが。声に出さずに返して、分かりきったことを聞く。「……あの、刑事さんですよね? 何か御用ですか?」
「おっ。覚えてたのか俺のこと。嬉しいね。いやね、藤沢くんの件でちょっと――話を伺いたいなと思って」
一旦言葉を切った刑事は、僕から外した視線を、僕の家に向けた。
「ご両親は、今ご在宅じゃないようだが、いつ戻ってくるかね? よかったら話が聞きたいんだが」
僕は大いに焦った。
刑事と話?
冗談じゃない。そんなことさせられるもんか。
二人とも、脳がほとんど残ってないんだ。複雑な会話なんかさせたら、たちまちそのことがばれてしまう。
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