もしかすると友達を殺したかもしれない高校男子(仮)による、ひと夏の物語。

ニラ畑

どちらが殺した?

ナンカワシュウは人を殺したかもしれない


 高橋靖たかはしやすし

 藤沢貴人ふじさわたかひと

 通う高校は違うけど、二人は僕の小学時代からの知り合いだ。

 友達と呼んでもいいと思う。

 けど、実のところ僕は、三人でいるのがあまり好きじゃなかった。靖、貴人、どちらかと二人でいる場合はいいんだけど、三人揃うと大抵靖と隆人ばかりが話して、僕はそっちのけになるからだ。

 まあ、無理もないといえばそうなんだけど。

 両者いわゆるクラスの中での一軍グループで、僕はどう考えても二軍のグループ。話題が噛み合わないことが、多々あった。

 あの夏休み。

 僕達三人は海へ遊びに行った。

 そして、二人になって帰ってきた。









 僕は南川修なんかわしゅう)。

 公立高校二年、見た目も、中身も、可もなく不可もない男子生徒。

 成績は、中ほど。友達付き合い、ふつう。彼女、なし。部活、なし。

 とどのつまり目立たないその他大勢の一人。

 別に卑下してるわけじゃない。むしろそれをありがたいと思っている。この状態を維持するためなら、どんな努力も惜しまない。常にそう思って行動している。

 だけど最近、無駄に注目されることが多くなってきた。。

 原因は隣のクラスの女子、広瀬アヤ《ひろせあや》だ

 今日もわざわざ休み時間に、僕のクラスまで遠征してきた。

「おーい、シューくんいるー?」

 すらっとして背が高い。僕より高い。美少女というタイプではないが、顔立ちはいい方――正直、彼女に気のある男子もいることと思う。

「ああ、いたいた」

 彼女が姿を見せたことで、クラスがざわついた。男女等しくこっちを見ている。

 彼女は、教室にまで入ってきた。

 長いコンパスのような足で大股にこちらの席までやってきて、ぽんと肩を叩く。

 ちなみに彼女がここまで僕に絡んでくる理由は、色恋沙汰ではない。

「どう? そろそろやりたくなってきてない? 陸上競技」

 純粋な勧誘だ。彼女は自分が所属する陸上部に、僕を取り込もうとしているのだ。

「いや、別に……そういうことはないけど……」

「何で、もったいない! シューくんさあ、絶対陸上の才能あるって! 運動神経めちゃいいって! 使わないと、勿体無いから! マジで罰が当たるよ!」

 これまで一切接触のなかった相手がこうまで僕に目をつけるようになった原因は、残念ながら僕自身にある。

 さっき僕は目立たないためならどんな努力も惜しまない。常にそう思って行動していると言ったが、それでも不幸な偶然というものはある。

 見られてしまったのだ、彼女に。全力で走るところを。そうせざるを得なかったのだ。暴走トラックにおめおめ轢かれるわけにいかなかったから。

「……いや、いいよ。部活とかしない主義だから……体育会系面倒くさそうだし……そもそも才能なんてないし……途中から入ると部の和を乱しそうだし……」

「何言ってんの、自信を持ちなよ! 中途入部でも十分間に合うから! もし文句を言う子がいたら、私が説得するからさ! 国体を目指そう国体を!」

 熱い。なんでこんなに熱いんだろう彼女。

 近くのクラスメートがくすくす笑いしてる。

 彼女が帰った後で、また色々聞かれるんだろうな。

 ここのところ僕、これまでにないくらい喋らなくちゃいけなくなってる。

 ああ、目につきたくない。話題の対象にされたくない。誰にとっても背景の一部でありたい。どんな形であれ、詮索されるような立場に身を置きたくないんだ。






 何故って、僕はもしかしたら、人を殺したかもしれないから。 去年の、夏。






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