5:学校での接触は禁止です!
学校では、俺とアリスは事務的な事以外は一切話さない。
同棲バレを防ぐ為にも必要以上の接触は無しにしようと俺から提案したのだが、当然アリスからは最初、反発があった。曰く、せっかく弟とクラスが同じなのに一緒にいれないのはおかしい! なのだが、普通に考えなくても学校とかそういう場だと、どんなに仲が良い兄弟でも一定距離は置くものなんじゃないだろうか。
結局、絶対に怪しまれるから駄目だと諭したら、渋々了承してくれた。
いや、あれは最初から了承するつもりだったけど、ごねてみただけのような気もするが……。
まあいずれにせよ学校行っている間、俺とアリスはお互いに一切干渉しないようにしていた。
――表面上では。
以下、スタンプ略。
『そういえば日用品がいくつか足りないね。私も引っ越しを期に勢い余って色々捨てちゃったし』
『あー、そういやそれぞれ専用のマグカップとか欲しいって言ってたな。今使ってるの俺が持ってきたやつでボロボロだし』
『うん』
『放課後買いに行くかー』
『行くっっ!!! あ、次、物理だ。嫌だなあ、あの先生露骨に私を目の敵にしてるし』
『あー、そういえば良く当てられるよな』
『ムカつくから猛勉強して全部答えられるようにしてるけど』
『それが出来るのが凄いよ……』
とまあ、こんな感じでチャットアプリを通して俺とアリスは仲良く会話をしていた。
それは何とも秘密めいたやり取りで、思わずドキドキしてしまう。目の前でソシャゲに精を出す帽子山も、アリスの前であくびしているギャルの井森さんも、きっと俺達がこうして仲睦まじくやり取りをしているなどと思うまい。
「お前、最近楽しそうだよな」
なのでいきなりそう声を掛けてきた帽子山に、俺はドキリとしてしまう。
「は? なんだよ急に」
「いや、なんか引っ越ししたんだっけ? その後から妙に機嫌が良いというか、浮かれているというか」
「引っ越し先が良くてね。住み心地最高なんだ」
嘘は付いていない。
「羨ましいねえ。俺んちなんてずっとボロアパートだよ。彼女も連れ込めねえ。まあ連れ込む彼女なんざいねえけど」
そう言って帽子山がため息をついた。眼鏡を外せば結構なイケメンだと俺は思っているが、本人にやる気がないのか、見た目にはかなり無頓着だ。
「まさか彼女でも出来たのかお前」
スマホから顔を上げずにそんな事を言い出す帽子山に俺はため息をつきながら答えた。
「なわけねーだろ。彼女いない歴イコール年齢記録を今も絶賛更新中だよ」
「……でも、お前A組のあいつと一時期アレだったじゃん」
その帽子山の言葉に俺は苦笑いを浮かべるが、同時に――窓際から視線を感じた気がした。
「何度も言っているが、あれは誤解だよ……」
「はあ……勿体ないよなあ。あんな可愛い子、俺なら放っておかねえのに」
「……そろそろ授業が始まるぞ。席、戻れよ」
「へいへーい」
去っていく帽子山を見て……俺はとある少女のことを思い出して、ため息をついた。そうだった……あいつがいるのをすっかり忘れていた。向こうも流石にあれ以来、何もしてこないが……もし勘付かれたら、騒がしいことになる。
そんな事を考えていると、スマホの通知画面に文字列が浮かんでいることに気付いた。
『A組のあいつとアレって何かな? お姉さん気になるなあ……』
一体いつ使うのか不明な、デフォルメされた可愛らしいウサギのキャラが、なぜか血の滴る大鎌を構えているスタンプの付いたそのメッセージを見て――俺は頭を抱えたのだった。
今日の買い物……無事に終わると良いなあ……。
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