第27話
クリフォードとサミュエルはブルーベル34号の搭載艇、
サミュエルが操縦席に座り、アウル1の発進準備を進め、クリフォードが副操縦席に座り、兵装関係と通信関係をチェックしていく。
サミュエルの緊急発進マニュアルに沿ったチェックが終わると、「こっちのチェックは終わった。すぐ出るぞ」とクリフォードに声を掛けてきた。
クリフォードも「了解、
サミュエルの「発進」という合図とともに、アウルの主機が起動した。機体が小刻みに振動すると静かに小惑星表面から上昇していく。
すぐに方向転換し、潜入部隊が待つ地点
(やはりサムは上手いな。僕だったらもっと吹かしていただろう。ニコール中尉の言葉じゃないけど迷子にならないにしてもフラフラとさせただろうな……)
クリフォードはサミュエルの繊細な操縦技術に心の中で賞賛する。
宇宙空間での二十五キロメートルなど無いに等しい距離だ。ごく僅かな加速の後、すぐに減速に入る。
クリフォードは念のため、アクティブセンサーも総動員して敵の攻撃に警戒した上で、ブルーベルに通信を入れた。
「こちらアウル1のコリングウッドです。ブルーベル応答願います。こちらアウル1……」
その呼びかけにすぐに応答があった。
「こちらブルーベルのクインよ。ミスター・コリングウッド、無事で何より。すぐに艦長に報告を」
弾むような声のクイン中尉の声が聞こえてきた。
「報告しま……」と彼が口にした時、アウルの警報システムが警告を発してきた。
『小型艇接近中、
「サム!」とクリフォードが叫ぶと、サミュエルはすぐにアウルを最大加速の三kGで加速させ、回避運動を開始する。
その間にクリフォードは素早く敵の小型艇の情報を確認した。
「敵はヤシマ製の汎用小型艇アカツキ級の改造型の模様。アカツキ級の最大加速は四kG、標準武装なし。サム、敵の兵装はミサイルだ!」
「了解! 敵との相対速度が小さすぎる……敵に機首を向ける! クリフ、攻撃に手が回るか!」
そう言いながら、サミュエルはアウルの機体が軋むほどの急旋回を行っていた。
「分かった!」とクリフォードは答え、アウルの固定武装である硬エックス線パルスレーザーを稼動させる。
小型艇に対し出力的には充分であるものの、自動追尾性能は貧弱で、高機動で迫るミサイルや小型艇への攻撃能力は限定的だ。
敵を解析した結果、短距離ミサイルを二発ないし四発搭載していることが判明した。
「敵はミサイルを二発、多ければ四発持っている」とクリフォードはサミュエルに伝える。
そして、この状況を打開すべく、思い切った手を打つことに決めた。
「ミサイルを撃つ前に沈めるしかない。サム、僕の合図で慣性航行に入って欲しい。敵に主機が故障したのか悩ませたいんだ。敵が悩んでいる時間を利用してパルスレーザーで攻撃する」
その言葉にサミュエルは驚き、確認する。
「大丈夫なのか!? 慣性航行すればいい的だぞ。ブルーベルのほうに引き込んで沈めてもらうわけにはいかないのか?」
クリフォードは首を横に振りながら、得られた情報から導き出した結論を簡潔に説明する。
「ブルーベルの位置は確認したんだが、この加速だと敵を引き付けるのに五分以上掛かる。それにブルーベルが隙を見せれば、敵の通商破壊艦が出てこないとも限らない。サム、僕を信じてくれ!」
クリフォードの言葉にサミュエルはこれ以上の議論は不要と判断した。
「了解、クリフ。君に命を預ける! いつでも言ってくれ!」
クリフォードはその言葉に応えることもなく、真剣な眼差しでレーザー砲制御装置のディスプレイを睨み、タイミングを計っていた。
「僕のカウントダウンで主推進装置と姿勢制御を止めてほしい。頼む!」
クリフォードはやや緊張した声でサミュエルに指示を出す。
サミュエルが「了解! クリフ!」と応えると、すぐにカウントダウンが始まった。
■■■
アルビオン軍スループ艦ブルーベル34号の
情報士のクイン中尉が応答するものの、敵小型艇を確認したという
得られた情報から、敵の小型汎用艇が死角になったところから発進し、アウル1に急速に接近していることが分かった。
「アウルに敵小型艇接近中! ヤシマ製の汎用小型艇の改造型と思われます」と状況を報告するが、心の中では“早く救援に向かって!”と叫んでいた。
エルマー・マイヤーズ艦長はアウル1から聞こえてくる候補生たちの会話を聞きながら冷静に命令を下していく。
「敵の通商破壊艦が出てくる可能性がある。ベースの監視を怠るな! ロートン大尉、主砲の連続使用の可能性があることを
CIC内は一瞬、訳が分からず、全員が艦長の方を振り向き、戦術士のオルガ・ロートン大尉ですら、復唱することを忘れていた。
「ロートン! 復唱はどうした! 全員任務に集中しろ!」といつもよりも強い声音で艦長が命じた。
全員が“了解”と答え、各自のコンソールに向かうと、クイン中尉が、「アウルはどうされるおつもりですか! 潜入部隊が危険です!」と叫んでしまう。
「アウルは候補生たちに任せる。今、アウルを救いに行くと敵の通商破壊艦が無傷でベースから出てくる。この速度では無傷の敵と渡り合えない。さあ、任務に戻ってくれ」
マイヤーズ艦長は冷厳とも言える口調で説明した後、黙ってメインスクリーンを見つめている。
艦長は意識して無表情な顔を作りながら、指揮官の孤独を味わっていた。
(冷血漢と思われても仕方がないな。だが、アウルを救いにいけば艦が危険になる。任務が成功した今、できるだけリスクを減らすのが指揮官の務めだ……それに……あの候補生なら何とかしてくれるような気もしている……これだけは
そして、すぐに意識を敵ベースに向ける。
(このタイミングで小型艇を出したということは、我々をそちらに引き付けるという意図だろう。ならば、敵の通商破壊艦が出撃してくる可能性が高い。しかし、なぜわざわざ危険を冒すのだろうか? ベースに致命的な損傷が起きたのか?)
敵がブルーベルを攻撃する意味が分からず、マイヤーズ艦長は内心で困惑していた。
ニコール中尉の報告はノイズが多く混じり、敵ベースにどの程度の損害を与えたのか、未だにはっきりとは分かっていないこともあり、通商破壊艦を脱出させなければならないほどの状況になったのではないかと考えた。
(しかし、ブルーベルで観測している限り、ベースに大きな異常は見られない。罠があるのかもしれん。注意しなければ……)
カオ・ルーリン司令の個人的な思いからブルーベルを沈めるとは全く考えていなかった。
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