ホワイト・ボイス ー20.11.30.

監督:ブーツ・ライリー


「装った声が導く白い世界」

脳科学者、茂木健一郎さんのツイッターより存在を知り、あまりに奇妙な作品ということで興味を持ち鑑賞する。


アメリカにおける有色人種差別と社会構造を、ど直球の比喩でコミカルにまとめた1本と観る。


ともかく全編に漂うチープなうさん臭さが、

すでに「白人の社会」を怪しい新興宗教団体か何かかとコケにしているようで、

そう表されているからこそ憤慨する当人たちへ「そうシリアスになりなさんなよ」と言いくるめているようで、ファンキーかつ痛快だった。


物語は、金に困った主人公が電話によるセールスの仕事を始めるが、声と口調で黒人とばれるせいで営業成績が上がらず、白人の声と喋り方を真似ればいいんだよ、と吹聴されて実践したところ、うんぬんかんぬん・・・、という内容だ。


果たして白人社会の「豊かさ」を手に入れてナニカを失うか、

そのナニカを白人社会から守るため「豊かさ」を手放し搾取されるのか。

もちろんそのナニカとはプライドで、両方あって相当のはずも、

ヘタをすれば双方とも失う、ちょっと間抜けで哀れが過ぎた最後の滑稽さに

笑えないけれど思わず笑ってしまう作品だった。

絶望的が絶妙なコメディはまったくもって珍しい。


このヘンテコな物語に「第九地区」×「マトリックス」を思い浮かべたが、

(そう、後半はナンセンスSFへかっとぶトンデモ展開なのだ)

どちらもそもそもがひとクセある作品なのに掛け合わせるなど、想像できやしないじゃないか、と思ってみたり。



監督はヒップホップだったか、ラップだったか、ミュージシャンだという。

その初監督作品ということで、あのファンキーなノリなのかと後で知り納得した。


ものすごく勉強して、訓練して、知識を深めて、作品へ挑むのは王道だが、

潰しがきかないとして、何も知らないからこそ編み出せる奇想天外さはあると思う。

センス頼りにならざるを得ないものの、そうしたのびのび、瑞々しい作品の魅力は捨てがたい。


確か今、アメリカの音楽シーンで注目されている茨城だったか、群馬だったかにお住いのミュージシャンはまったく音符も読めず、だから昔からやっていたわけでも、マニアックにこだわってきたわけでもない方で、感覚のみで好き勝手に作ってそれを売り込んだ結果、注目されているらしい。

おそらくは「プロならしない」掟破りが斬新、新鮮で注目されているのでは、とのこと。

モノカキもアカデミックに追究するもありだが、

ルールや常識に縛られることがないからこその自由奔放、想定外も

大事だよな、と本作に思ってみたりする。


そう、そうした作品って、けっこうチャーミングなのだよね。

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