5.みこ様にとっての初デート♡
翌日は何かと忙しかった。
まず、みこの服がないことから生活に必要なものを揃えることから始まった。
そもそも下山するときも、巫女装束のままで下りようとしたからさすがに止めた。
彼女にとったら、巫女装束が正装なのだろうけど、街中にまで行くとそういうことにもいかない。
複数日程を想定していた分のボクの服があったので、ポロシャツとハーフパンツに履き替えさせた。
下山して、自室に荷物を置いたその足で、ショッピングモールに出かける。
ユニクロやらGUやらで服一式を、あとその…女の子の下着をその専門店に買いに行く。
「雄一…見てくれ…妾の下着姿、おかしくないか…?」
しかも、巫女装束の時はフワッとした着こなしだったから気づかなかったけど、結構大きなものをお持ちなんですね…。
わざとではないのだろうが、恥ずかしそうに両腕で胸を寄せるような恰好でボクに見せつけてくる。
「てか、そんなもの男に見せるもんじゃないよ!」
「え!? そ、そうなのか!? さっきの服のお店では見てくれたではないか!」
「下着は見せなくていいの!」
ボクも彼女に反応するように顔を真っ赤にする。
どうして、あんな谷間を強調させるような恰好でわざわざ見せてきたの!? 店員と共犯!?
脳裏に焼き付いちゃったじゃないか…。
遅くなった昼食はフードコートのハンバーガーを頂くことになった。
みこにとっては、何から何まで未知なる経験のオンパレードだ。
目を輝かせながら、そのひとつひとつを経験していく。
ガチャリ…
ドアを開けて、たくさんの荷物を持って、部屋に入る。
「「ただいま~~~」」
リビングに入るなり、その荷物を開けることなく、ボクはフローリングの床に倒れ込む。
「かなり疲れた…。どっと疲れた…。これ以上ないくらい疲れた…」
「何を言っておる…。まだ、この程度の買い物で弱音を吐くではない…。本物のカノジョができたらこのくらいでは終わらぬだろうに…」
みこは買ってきた商品をひとつずつ取り出して、お店の時同様に嬉々とした表情を浮かべている。
ボクは「マジで…」と力なく呟いた。
デートなんかしたことがないし、早くして両親を失った彼にとっては、家族で買い物なども義理の父母に小学生の頃に連れて行ってもらって以来、行っていない。
ボクにとって、女の子との付き合い方云々の前に、一人暮らしが長かったことから、『普通の家族生活』ということそのものすら経験値が低いのである。
テーブルにコトッとガラスコップをみこは置いた。
コップの中には、麦茶が入っていた。
「今日は、付き合ってもらって悪かったな…。まあ、ゆっくりして良いぞ…。その…勝手にお茶を入れさせてもらったぞ」
みこはボクの横に正座で、コップに入れた麦茶を飲み始める。
コクコクッと冷たい麦茶が喉を鳴らしている姿を見て、可愛いなと感じる。
昨日から彼女を見ると、こんな感情ばっかりだ…。
「どうした? 妾の顔に何かついておるか?」
「え? いや、何も…」
「ふーん。……あ、もしかして、妾に恋をしてしもうたか…?」
「いや、断じてそんなことはない!」
「なんか、そう即答されるのも癪に障るな…。仮にも妾は『カノジョ』なんじゃぞ」
うん。『限定カノジョ』だけどね…。
心の中を覗かれたのかと思い、雄一は冷や汗をかいた。
みこは何だか気に入らなかったらしく、頬を膨らましてブーブー言いながら、麦茶を飲んでいる。
ボクは、みこを見ていると何だか新鮮な気持ちになれた。
これまでに感じたことのない新しい感覚を覚えた。
でも、今はこの気持ちがないから来ているのか自分自身理解できていなくて、どうしようもなかった。
リビング横の部屋は、彼が主に寝室として使っていた部屋だった。
そこにはもともと備え付けのウォークインクローゼットがあった。
できれば男女別々の方がありがたいのだが、さすがに無いもの
下着類はホームセンターで購入したプラスティック製の衣類ケースを使って各々で管理することとなった。
さすがに男に下着を管理されるのはどうかと思うので、そう提案したが、彼女はサバサバした感じで、
「妾の下着くらい別に雄一が片付けてくれても構わん。さすがに匂いを
と、まあ寛大すぎる心の持ち主だ。
(もう少し、異性であるボクを気にしてほしい…)
そんなことを思いながら、みこが入れてくれた麦茶を飲む。
みこはというとブラジャーやショーツに付いている値札を外したり、買ってきた真新しい衣類ケースにそれぞれ入れていく。
笑顔が絶えない感じで、新生活を楽しむ気満々のようだ。
(そっか…。みこってあんまりネガティブに物事を考えていないのか…。きっと悪いことが起こるかもしれないけど、でもそれを考えていても始まらない。ならば、今、やれることをやって、人生を楽しもうという考え方なのかな…)
ボクは自分の今まで持っていた人生の価値観が間違っていたとは言わないが、見方は変わるかもしれない。
どうしても、みこに視線がいってしまう。まるで新しい生き物を見たときのように…。
「ん? 何なに? やっぱり惚れてるんじゃろ!?」
「いや、大丈夫」
「嘘でも『うん』って言ってほしいぞぉ…。これから同棲するカノジョなんだからな…」
「あ、そろそろ晩御飯作らなきゃ…」
「さらに流す!? もはや、妾の存在は空気!?」
いつもだったら、スーパーの惣菜とかで済ませたりすることが多いけど、これから2人分必要になると考えると、『一菜一汁』くらいにはしておいた方がいい。
今日の献立は至って簡単だ。先日、ハンバーグの種を作りすぎたものを、ハンバーグとメンチコロッケの2種類にしてそれぞれ冷凍保存してあった。
まさか、家族が増えるとは思っていなかったが、作り置き分がちょうどいい。
メンチカツとスーパーの100円で売っている生野菜パック(しかも、おつとめ品だから、さらに安い!)、そして豆腐の味噌汁を作った。
「晩御飯、出来たよ~」
ボクが呼ぶと、みこが寝室からリビングにやってくる。
「おおっ! 新婚初夜の食事!!」
「まだ、結婚してないでしょ…。みこって発言がぶっ飛ぶことがたまにあるよね」
「い、いやか…?」
ボクは「うーん」と考える。
まあ、確かにみこと出会ってからはボクのペースは崩されまくりだ。
すべてが彼女のペースに飲み込まれているって感じだ。
でも、変な話だけれど、楽しくないという印象はない。むしろ、部屋に明るさが生まれたような気がする…。
「別に嫌じゃないけど…」
「本当か! 否定ばかりしておった雄一から認めてもらえるのは嬉しいな!」
「うん、何か妹を手に入れた感じで、ね」
「それはどういう意味じゃ―――――――っ!? やっぱりバカにしておるじゃろう! 雄一は妾を
何その病気―――?
そんなつもり全くないんだけど…。
彼女はブーブーと文句を言いながら、食事をとり始める。
うーん、やっぱりメンチカツは美味い。肉汁が染み出てくる感じがいい。
「やっぱり、妾も料理が出来たほうがいいのかのぉ…」
「いやいや、ボクもそんな出来たほうじゃないから…。どうせ、同棲するならば一緒に作れるようになればいいじゃないのかな?」
「やだ…。雄一との共同作業だなんて…」
ねぇ、やっぱりこの女狐様の脳細胞って故障してない?
ネジ何本もぶっ飛んだようなことを言ってるんだけど…。
「まあ、でも食事を作れることに意義はないので、手伝って覚えてくれると嬉しいね」
「ほうほう! それは楽しみじゃ!」
みこは嬉しそうな表情をして、ご飯を頬張る。
食事はたわいもない話をしながら30分ほどで終了した。
「さてと、明日は学校近くの制服を扱っている店に行って、採寸などをしてもらわないとな…。もしも、既製品であるならば、それでも良いんだけど…。だから、朝から出かけるから、今日は片づけしたらお風呂に入って、寝るか…」
「ええっ!? もう新婚初夜迎えちゃうの!? 何だか恥ずかしいのぉ…」
「んなわけないでしょ! 単に寝るだけだよ!」
「え、でも、さっき寝室で作業してて思ったんだけど、ベッド1つしかなかったぞ…」
――――え?
そう言われれば、ベッドはボクが元々使っていたものしかないし、今日、ショッピングモールやホームセンターに行った時には、買わなかった…。
いや、正直忘れていた…。
どうしよう…。このままでは本当にみこと一緒にベッドイン確定だ―――!?
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