異世界転生後輩

一之三頼

序章 転生

異世界転生後輩

気が付くと、そこは空白の空間だった。

ただただ白く、自らの身体さえ見ることは叶わない。

それどころか、身体など存在しないかのようだった。


「貴方には転生してもらいます。」


すると何処からともなく男のようにも、女のようにも聞こえる声が響いてくる。

転生、一体どういう事だろうか。


「貴方は死にました。なので魂を回収し、別世界にて肉体を再構築して魂を入れます。つまりは異世界転生です。」


な、なんだってー!?

これはチートを貰って無双してハーレムを築き上げる未来が見えるぞ!テンション上がって来た!

世界最強の力に圧倒的頭脳、そしてカリスマ性が欲しいです!


「そうですか。では早速転生してもらいましょう。」


ワクワクしながら意識を失っていく。

これからは俺が主人公だ!




そして目を覚ますと知らない平原にいた。

出来る事なら状況を理解しやすいところに送ってほしかったが、仕方がない。

とにかく街を探して歩くとするか。

そう思っていると前方から行商人らしき人物が馬車に乗ってやって来た。


「あの、ちょっといいですか?」

「おや、珍しい格好だね。」

「俺、実は「知ってるよ。『テンセイシャ』ってやつだろ?」え?」


行商人は俺の正体をピタリと当てる。

もしかして、この行商人は神様が俺に遣わせた案内役か何かだろうか?

それならもっと美人な女性の方が嬉しかったが、何も無いよりはマシか。

とにかく街まで連れて行った貰おう。


「少し話を聞かせてもらっても良いですか?あと街まで送ってもらいたいんですが。」

「ふむ。」


行商人は俺の事をジロジロと見てくる。

俺の魅力にメロメロになってしまったのかな?


「まぁいいだろう。乗りな。」

「ありがとうございます。それでなんで転生者だと分かったんですか?」


行商人は了承し、俺に馬車に乗るように促した。

俺は馬車に乗り、すぐに気になっていた事を質問した。


「他にも色々なテンセイシャって奴がいるからな。珍しい素材の服を着てるだけなら高貴な御方かも知れんが、供も付けずに一人でいるって奴はテンセイシャの可能性が高いって事だ。」

「他にも転生者が!?」


なんだと!?転生者は俺一人ではなかったのか!

それじゃ主人公としての活躍は一体どうなってしまうんだ!?

いや、案外かませ犬的な立ち位置かも知れない。

行商人が知っているか分からないが、聞くだけ聞いてみよう。


「他の転生者ってどんな人か知っていますか?」

「そうだな。私の知っている範囲ではジョセフ、ノヴァーガ、フリード、サロットって奴らが有名だな。」

「そんなにいっぱいいるんですか!?」

「他にも沢山いるぞ。有名じゃない奴らを数え始めたらキリがない。」


一体何人いるんだよ!?

転生者多すぎだろ!





俺は馬車に揺られながら他の転生者について話を聞いていく。


「ちなみに、今言った人たちはどんな人なんでしょうか?」

「どんな人、か。私もあまり詳しくはないが、


ジョセフと言う男は平民たちをまとめ上げ、このウラッセア王国の王族を打倒して支配者となった。今となってはこの地はウラッセア共和国って称してる。だが良い話は聞かないな。なんでもウハヤエ教を信じることを禁止して、教会を打ち壊したり、教会関係者を処刑してるって話しだ。


ノヴァーガと言う男はウラッセア王国の東部にある離島を治める貴族に拾われて仕えていたらしいが、反乱を起こして主を追放・独立したんだ。その後は商業を振興して一気に領地を豊かにしたらしい。ノヴァーガはジョセフと違って信仰を禁止したりはしなかったが、政治の助言をしていたウハヤエ教の司祭を追い出して政治を独占しているそうだ。


フリードって言う男はウラッセア王国の西方を治める貴族に将軍として雇用されたらしい。なんでも部下や国民たちに家畜の餌を食べさせたりしているらしいぞ。今でも西方貴族がジョセフに抵抗しているが、フリードが指揮を執っているって聞いたな。


サロットって言う男はジョセフが国を乗っ取るとウラッセア王国の南東にある地域で同調して反乱を起こしたんだ。ただ、あいつはヤバい。その地域の反乱に同調しなかった大人たちを皆殺しにしようとしたんだ。一部の大人たちは逃げおおせたが、多くの人間が犠牲になったらしい。今となっちゃ、その地域にはサロットに従う奴か洗脳された子供しかいないだろう。




さて、リエフの街が見えてきたな。」


行商人の話を聞いていると街が見えてきた。

あそこから俺の冒険が始まるんだ!他にも転生者はいるが、俺は俺だけの冒険譚を紡いでやる。


「ほら、これに着替えな。」

「これは、服?」

「どうせ今着てる服しか持っていないんだろう。」


確かに、この世界風の装備に身を包んでこそ、冒険の始まりを感じる事が出来るな。

気の利いた行商人だ。この気配り、きっとやり手の商人に違いない。


「ありがとうございます。」


早速着替えるとしよう。

そして着替えると、


「それじゃあ情報料と街までの運賃、さっき渡した服の代金としてこの服は頂くぞ。」

「は?ちょっと待ってくれ!」


いきなり何を言い出すんだ、この商人は!?


「当たり前だろうが!何タダで情報やらを貰えると思ってやがるんだ!むしろ奴隷商に売り飛ばさない事に感謝しな!」

「ひぇっ………。」

「異世界の素材はまだ流通が少ないからな。これで勘弁してやるよ。それじゃあな!」


商人は突如、豹変し、俺を馬車から蹴り落した。

くそっ!なんなんだ!絶対に許さないぞ!いつか必ず復讐してやる!

なんたって俺には神に与えられたチート能力が!

チート能力が…………?

なんだか凄い力を持っているような感じがしない。

試しに壁を殴ってみる。


「痛っ!」


びくともしない。

もしかしたら、筋力とかではなく、頭脳の方がチート性能になっているのかも知れない。

この状況から、楽して栄達し、復讐を遂げる方法を考える。

しかし何も思い浮かばない。頭脳はまったく冴え渡らない。

さっきの商人の対応を見るに、カリスマ的魅力がある訳でもない。


「なんだってんだよ!クソ神め!こんな状況でどうしろってんだよ!」


着の身着のまま、お金もなければ、住む場所もない。

武器もなければ、知識もない。

他の転生者はかませどころか国家転覆、独裁政治、人権侵害、大量虐殺と関わりたくない奴のオンパレード。

どうしようもないじゃないか!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る