第358話 17章:美女とヴァリアント(10) SIDE カズ

SIDE カズ


 テレビ局での事件から一夜が明けると、報道は様変わりしていた。

 『ブギーマン』という単語が見出しを席巻しているのだ。


 街頭でブギーマンコールをする若者がブラウン管に映し出されている。

 まだ朝だというのに、街頭には千人規模の集団ができている。

 アナウンサーはしきりに殺人犯のニックネームとしてつけられたその名を連呼し、テレビ局内で殺人事件が起きたことを報道し続けていた。


 殺人犯は政治に不満を持ったサラリーマンということになっていた。

 焦点は5%に増税された消費税だ。

 より不景気に向かうだとか、庶民をいじめるなだとか、ブギーマンは人生をかけて抗議をしたのだとか、わめきちらしている。


 その消費税、未来にはもっと上がるんだよなあ。

 給料の低いブラックリーマン時代は、家計に大打撃だったのを覚えてる。


「なんでこんな話になってるの? 事件の詳細はぼかされてるのに、ねつ造された主張の報道ばっかり。いつもなら、被害者や犯人のまわりを嗅ぎまわるのに」


 フォークに目玉焼きを刺したまま、双葉がぽかんとした顔でテレビを見つめている。


「とりあえずは狙い通りか」

「そうね」


 オレと由依は目を合わせ、頷き合う。


「なになに? どういうこと? あたしは仲間はずれかな?」


 ぷっくりと頬をふくらませた双葉が、オレと由依を交互に睨む。


「上手く行ったら説明するから」

「二人で通じ合ってる感じがズルいんだってば。ねえ、システィーナさん」

「うん。なかまはずれはわるい」


 そこでシスティーナを味方につけるのはずるいぞ。

 あと、日本語の上達早いなあ。


「隠すようなことでもないから説明するよ。でも、現場に向かいながらだ」

「現場って……あそこに行くの?」


 双葉はちょっとイヤそうにしながら、テレビを見た。

 あまり近づきたい光景でないのは確かだ。


「来てくれると助かる」

「ほんと!? いくいく!」


 なぜか双葉は「ふふーん」と由依にドヤ顔をキメている。


「私の方が頼りになるよね? ね?」


 一方、由依はじっとオレの目を見つめてくる。


「二人とも頼りにしてるってば」


 ライバル心は能力の向上に繋がるからいいのだが、ちょっとだけ心労がね……。


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