第323話 16章:ヴァリアント・ザ・オリジネーション(7)

「あら、お見送りをすると申し上げましたでしょう? 未来の旦那様」


 華鈴さんがうやうやしく一礼をした。


「すっごい美少女……」「また難波が女をひっかけてるぞ」「他校の生徒か?」「いや、でもここイタリアだよな?」


 華鈴さんの一言に生徒達がざわつく。


「見送りって普通、出発地でやるものじゃ……」


 オレは今にも抱きついてきそうな華鈴さんを手で制しつつ訊く。


「こちらでちょっとお仕事がありましたの。ちょうどカズさんの旅行日程に合うと思って、お待ちしていたのですわ」

「なんで他校の修学旅行のスケジュールを把握してるんだよ」


 到着ゲート付近にいたということは、乗る便までしっかり調べてある。


「元気そうなお顔を見られて何よりでしたわ。それでは私はこのまま日本に戻りますので、お土産をお願いいたしますわね」


 華鈴さんは颯爽と、高級ラウンジの方へと消えて行った。

 どっちが見送る側かわからんなこれ。


 由依がめっちゃ睨んできてるし、さっさとオレのホストファミリーを探そう。


 オレとペアになるのはカルロという同い年の男子だったはず。


 カルロはすぐに見つかった。

 穏やかな笑顔とさらりと流れる銀髪が特徴の優男だ。

 女子達がちらちらと視線を向けるほどにはイケメンである。

 身長はオレと同じくらいだが、頭身は……比べたくないぞ。


「キミがナンバカズだね。カルロだ。よろしくね」


 カルロもすぐにこちらを見つけ、歩み寄ってくる。


「こちらこそよろしく」


 オレは差し出された右手を握った。


「今日はこのままホストファミリーに任せて解散だったね。うちはローマの郊外なんだ。観光は明日にしてうちで夕食ということでいいかな?」


 現地時間は既に夕方をすぎている。


「かまわない」


 ちなみにオレ達が使っているのは英語だ。

 ホストファミリーをしてくれる生徒達が通うのは、ローマ近郊でも屈指の進学校らしく、みな英語は堪能だ。

 ややカタカナ英語なので、ネイティブよりもむしろ日本人には聞き取りやすい。

 クラスの連中も苦戦している者は多いが、なんとかコミュニケーションをとっているようだ。


 外国語は必要に迫らせないと覚えられない、というのが学校の方針だ。

 受験を前に、荒療治を一つしておこうということらしい。

 学校教育の否定ともとれるのだが、まあ変わった高校だし、それくらいは言うだろう。


「うちは姉と二人暮らしでね。他のみんなと違って、家族の車というわけにはいかないのは許して欲しい」


 そういうカルロに案内されたのはタクシーだった。

 てっきり鉄道でも使うかと思ったが。


「高校生なのに姉と二人暮らしなんだな」


 タクシーに乗り込むと、なんとなく話題をふってみた。

 ホストファミリーになる条件に、保護者の存在は入っていないのだろうか。

 なんて疑問は、彼と握手をした時に霧散している。


「キミもそうだろ?」

「ホストファミリーには、こちらの家族構成の情報もいくのか」

「いいや」

「『組織』からの情報か」

「握手でのメッセージは伝わったようだね」

「まあな」


 カルロは最初の握手の際、わずかに魔力を流してきた。

 こちらの世界における魔法の発達具合を考えると、かなり上手く扱える方なのだろう。

 『関係者』だと伝えるにはわかりやすい方法だ。




 空港を出て1時間ほど。

 タクシー庭付きの一軒家が連なる住宅街に到着した。

 どの家も広めの敷地をもつ。

 高級住宅街というやつか。


「さて、まずは荷物の中にある2つのソレをなんとかしないとね」


 タクシーを降りるなり、カルロはオレの鞄を指さした。

 そこには、飛行機の中でヴァリアントを閉じ込めた結界が入っている。


 こいつ……予想よりできるぞ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る