第298話 15章:赤のフォーク(12)
オオゲツヒメの右腕はポッドの強化ガラスごと、中にいる女の子の上半身を丸呑みにした。
「このっ!」
次のポッドに向かう右腕に斬りつけようとするが、口がこちらを向いた。
この剣が喰われるとも思えないが、万が一ということもある。
オレは直前で剣を止め、数歩分下がった。
すると右腕からオオゲツヒメの体が瞬時に再生した。
「果実で育てられた人間の肉は、やはり甘くて美味しいですね」
穏やかな笑顔のまま舌なめずりをする素っ裸の女中。
もはや女中成分は残っていないが。
あの状態から再生できるのか。
もしかして、右腕が本体なのか?
オオゲツヒメの右腕が口を開け、オレに迫る。
「はっ!」
オレは手から出した衝撃波で、一瞬オオゲツヒメの動きを止めた。
衝撃波自体は喰われ、それを撃ち返そうとしているようだが、こちらの方が速い!
「カズ!」
神器を発動させた由依が地面を滑るようにオレを追い越し、伸びたオオゲツヒメの腕を蹴り上げることで、斬り飛ばした。
「体は任せた!」
「了解!」
由依はそのまま空中をスライディングするようにして、突っ込んでいく。
「双葉! 腕とオレだけを!」
「準備できてるよ!」
双葉が展開した神域絶界は、由依が斬り飛ばしたオオゲツヒメの腕と、オレだけを閉じ込めた。
もちろんポッドも外だ。
縦長の神域絶界内で対峙したのは一瞬。
オレは火炎魔法を大きく開いた右腕の口に叩き込んだ。
右腕はブラックホールのように炎を吸い込み続けている。
それでもオレは魔法を放ち続ける。
許容量オーバーになる様子はない。
だが同時に、こちらの魔法を撃ち返すこともできないようだ。
吸収と射出は同時にはできないらしい。
オレは火炎魔法を7つに枝分かれさせ、1本は正面のまま、残り6本を右腕の背後にまわした。
腕が焦りを見せたような気がしたが、容赦なく炎で包み込む。
「ぎおおおおお……っ!」
腕は耳障りな悲鳴を上げて燃え尽きた。
しばらくして神域絶界が解かれると、由依がオオゲツヒメの体を粉々にし終わったところだった。
「カズが神域絶界に入ったとたんに動きが鈍くなったけどどうしたんだろ?」
「そうなるとやっぱり右腕が本体だったんだな」
「ヴァリアントは人間と急所が違う場合もあるってこと?」
「みたいだな」
一応、連中は人間をベースにしているはずなのだが、魔法なしで再生したりもするし、個性があるのだろう。
「これ……説明して頂けるんですわよね……?」
完全に腰を抜かしながらも、取り乱さないのは流石と言っていいのだろうか。
さて、華鈴さんにはどう説明したものかね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます