第181話 10章:テーマパーク(10) SIDE 宇佐野

SIDE 宇佐野


「ママとはどのへんではぐれたの?」

「あっち」


 幼女が指さしたのはキャットフォレストエリア。

 木々でちょっと迷いやすい不思議な感覚を得られるのが特徴だ。


 あたりを見回してみるも、幼女の母親らしき人は見当たらない。

 それどころか、相変わらず人影すらない。


「あらあら」


 そこに現れたのは、おっとりしたロングヘアーにロングスカートのお姉さんだ。


「さあ、こちらにいらっしゃい」


「あなたのママかお姉さん?」


 幼女に尋ねると、彼女は小さく首を横に振り、私の後ろに隠れてしまった。


「怖がらなくても良いのよ。さあ」


 お姉さんは、幼女に手を差し出してくる。


 なんだろう……やさしそうな人に見えるのに、少し怖い……。

 幼女もママではないと言っているし、この人に引き渡しちゃいけない気がする。


「この子とはどういう関係なんですか?」

「さあ、それを知る必要はないと思いますよ?」


 お姉さんはにっこり笑うと、幼女の手をひっぱった。


「いたいっ!」

「ちょっと! やめてください!」


 私は幼女を抱き寄せようとするが、お姉さんの力は予想外に強く、逆に突き飛ばされた。


「痛っ……!」


 尻餅をついたひょうしに、掌をすりむいてしまった。

 指先に血が滲んでいる。


「めんどくさいわねえ。成長したお肉は好みじゃ無いけど。ついでに頂いてあげるわ」


 お姉さんがそう言うと、彼女の口に鋭い牙が生えた。


 キャットミーランドにこんなキャラクターはいなかったはず。

 というか作り物に見えな――


 私が硬直していると、お姉さんが幼女の首筋にガッツリ噛み付いた。


 キス……じゃないよね。

 お姉さんは気絶した幼女の首筋から血を吸い上げ、ごくごくと飲み下している。

 口の端から鮮血が垂れる。


 ヴァンパイアという単語が頭をよぎるが、それはフィクションだ。

 目の前で起きているのは現実。

 悪質な変質者だ。


「誰か助けて!」


 枯れた声で叫ぶも、助けは来ない。

 おかしい。

 いくら夜だからといって、夏休みのパーク内にここまで人気のないところなど存在するだろうか?


「うるさいですね。メインディッシュの前に、前菜をいだきましょうか」


 お姉さんは口の周りをべったりと血で塗らし、幼女を地面においた。

 その赤く光る目が、はっきり私をとらえている。

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