第172話 10章:テーマパーク(1)

  ■ 10章:テーマパーク ■



 無人島から帰宅したオレは、兵士達への訓練からハーデース撃破までの一部始終を双葉に説明していた。


「事情はわかったから怒らないけど……むぅ……」


 双葉は不満そうに口を尖らせている。


「双葉だけにはお土産も持ってきたから許してくれ」

「なになに?」


 オレは島でもらってきたカチューシャを双葉に渡した。


 核の残骸とは合成済みである。

 合成の過程で、核の残骸は消費され、カチューシャに合成できたのは僅かだった。

 グングニルの半分以下の濃度だろうか。


「お兄ちゃんがこんなプレゼントを用意してくれるなんて!」


 双葉は黒いカチューシャを掲げて目をきらきらさせている。


「兵士達からもらった神器だ。双葉に使えるか試してみてくれ」

「神器……ああ……そういう」


 なぜそこで落胆するんだ。


「双葉も神域絶界以外に身を守る方法があった方がいいと思ってな。

 これまで適応者が出たことがないらしくてな。どんな効果なのかはわからないけど」


 合成もしたからなおさらだ。


「うん……心配してくれてるんだもんね。ありがとう」


 双葉はちょっとしょんぼりしつつも、カチューシャを頭につけた。

 だからなんでちょっと残念そうなんだ。


「つけただけじゃ何もおこらないけど……」


 双葉はカチューシャを指でつついているが、何の反応もない。


「適性がある神器に触れると、本人には何か感じるところがあるらしいんだよな。何かないか?」

「うーん……ただのカチューシャとしか思えないなあ。集中すると魔力は感じるんだけど、他の神器を見た時と同じだね」

「そうか……」


 スサノオの血を引く双葉ならあるいは神器への適性が高かったりしないかとも思ったが、そんなことはなかったか。


「ねえお兄ちゃん。これ、もらってもいい?」

「他に渡すアテもないしな。いいぞ」

「やった、ありがと!」


 機嫌がよくなったり悪くなったり忙しいやつだ。

 とはいえ、気に入ってくれたのなら何よりである。


「まあ似合ってるしな」

「え……」


 なんの気なしに言ったその言葉に、双葉の顔がぼんっと赤くなった。


「兄妹でそんなこと言われてもね」


 そうあきらかに照れられると、なんかこっちも恥ずかしくなるぞ。

 由依といるときに感じるそれは別の、家族ならではのものだ。


「他の女のこと考えてるでしょ」

「そ、そんなことないぞ」

「む~。まあいいや。でも遊びに連れて行ってくれる約束は忘れてないよね?」

「もちろんだ」

「じゃあねえ、まずは準備のために服を買いにいくのにつきあって! 明日ね!」

「前哨戦があんの!?」

「よく考えたら、電話が通じなくてもお兄ちゃんなら太平洋の無人島なんて日帰りできるんだよね」

「う……」

「妹を放っておいて、巨乳おさななじみとよろしくしてたと……」

「うぅ……」

「いいよね?」

「もちろんです」


 こりゃあ、買う服もおごりだなあ。

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