第170話 9章:ラブレターフロムギリシャ(27)

「待たせたな」


 みんなボロボロではあるものの、死人は出ていない。


「よく耐えた」

「カズが来てくれるって信じてたから」


 由依はもう立ち上がる力さえないらしく、その場にへたりこんでいる。


「少し待っててくれ」

「うん、待ってる」


 かなり消耗しているだろうに、由依は心配をかけまいと笑顔を向けてくる。


 どうやらこのケルベロスはヴァリアントではなく、ハーデースによる召喚らしい。

 術者が死んでも呼ばれたままのタイプか。


 いずれにせよ、由依に危害を加えたのだ。

 死んでもらおう。


 オレが剣に魔力を込めると、ケルベロスが一瞬怯んだ。

 本能ははたらいているか。

 だがケルベロスはその本能に従わなかった。

 オレに斬られた頭部を再生させ、向かってくる。

 再生させたはずの頭部は、半分ただれ、まるでアンデッドのようだ。

 完全に再生させるだけの魔力が残っていないのだろう。

 これは間違いなく由依たちの功績だ。

 みんなよく頑張った。


 迫り来る巨大な3つの頭。

 オレはそれを一太刀で斬り落とした。

 ぼとぼとと地面に落ちた3つの首が、胴体と切り離されてなお、オレに噛み付こうと歯をガチガチ鳴らしている。

 オレはそれらを火柱で包み込みつつ、ケルベロスの胴体を細切れにした。

 さらに胴体を爆発系魔法で吹き飛ばす。


「あの化け物を一瞬で……」「さすがボス!」「もはや人間か疑わしいぜ!」


 兵士達が歓声を上げた。

 重症者もいるようだが、回復系の神器を持つ者に応急処置をしてもらっているようだ。


 オレはまず由依に治癒魔法をかけつつ、枯渇している魔力を送りこんだ。


「ん……あ……はん……」


 由依は快感に身をよじりつつ、頬を紅潮させる。

 しなだれかかる由依を抱き止めながら、オレはほっと安堵した。


「強くなったな」


 女の子に言う褒め言葉ではないかもしれない。

 だが由依は喜ぶだろう。


「うん、ありがと!」


 ほらな。最高の笑顔だ。


「ボ、ボス……いい雰囲気のところ悪いんですが、できればこっちも……」


 アクセルが砂浜をずりずりと這い寄ってきた。


 そうだった。

 みんなの回復もしなくちゃな。


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