第145話 9章:ラブレターフロムギリシャ(2)

◇ ◆ ◇


「ねえねえ、難波君。夏休みって暇?」


 終業式とホームルームを終えてざわつく教室で、元気よく話しかけてきたのは渡辺だ。


「ずいぶんざっくりした質問だな。そりゃ暇な日もあるけど」

「ほんと!? じゃあさ、みんなで海行こうって話をしてるんだけど、難波君もどう?」

「海ぃ……?」

「そんな露骨にイヤな顔しなくても」

「潮臭いし、体はベトつくし」

「意外に潔癖だなあ……」


 あと、異世界の海でめんどくさいモンスターに絡まれまくった思い出がな。


「おい難波! 頼む、来てくれよ!」「そうだそうだ!」「たのむよ!」


 クラスの中でもそういったイベントに参加しそうな陽キャ系男子が必死に頼み込んでくる。

 オレってばいつの間にそんな人気者に……。

 異世界に行くまではありえなかったことだ。

 うっかり涙ぐみそうになってしまうぞ。


「「「難波が来ないと、白鳥さんが来ないだろ水着!」」」


 オレの感動を返せ!

 あと語尾に欲望が漏れすぎだ。


「遠慮しとくよ……」


 オレはぎゃいぎゃい騒ぐクラスメイトを尻目に、オレは由依と教室を出た。


「ねえカズ、海がイヤならプールでどうかな?」


 廊下を歩きながら、由依が少し恥ずかしそうに上目遣いで訊いてきた。


「由依が行きたいならどっちでもいいぞ」

「ほんと!? じゃあ……海かな。海は夏にしか行けないしね」

「よし、じゃあ海にするか」

「うん!」


 オレと海に行くと言ってそんに嬉しそうな顔をしてくれるなんて……照れるじゃないか。


「行く日は……明日、親父さんと話してからでいいか?」


 学園祭で予告された通り、数日前に由依の父からオレに伝言が届けられていた。

 『話があるから、夏休みの初日に白鳥邸を訪れて欲しい』とのことだ。

 当たり前のようにこちらを呼び出すが、家におしかけられるよりはいい。


「ごめんねカズ。なんだか面倒なことになって。それに、一方的に呼びつけるなんて……」

「いいさ。白鳥家の調査能力を考えると、いずれこうなるとは思ってたからな。オレのことはどれくらいバレてるんだ?」

「たぶんだけど、私と一緒にヴァリアントと戦ってるってことくらいかな。私が無傷でヴァリアントを狩ってるから、カズもかなり強いとは思ってるみたい」

「双葉のことは?」

「むしろカズより双葉ちゃんの方が詳しく調べられてると思う」

「組織にいた分、情報もそろってるってことか」

「うん。神域絶界のことは知られてないと思うけど……」


 神域絶界はヴァリアントの前でしか見せていない。

 その性質上、絶界内にいなければ観測は難しいはずだ。

 もし監視されていたとしても、外からは姿が消えたように見えるだけだからだ。

 神域絶界のことを知っていれば、推測くらいはできるかもしれないが。


「ごめんなさい。上層部がどんな情報を持ってるかは私もわからなくて」

「由依が謝ることじゃないさ」


 事前情報は少ないものの、オレを呼び出す理由に心当たりはいくつかあるが……。

 オレにとってはどんな強敵との対決よりも、ある意味緊張する相手だ。

 さて、どんな話が出てくるのか。


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