第98話 7章:オレにとってはぬるキャン△(2)
キャンプ場へは学校からバスでの送迎となる。
高校から一台、中学から一台。
それぞれ20人ずつの参加だ。
結局参加することにした双葉とはいったん別れての旅路となる。
バスの座席は、2席が2列のよくあるタイプだ。
「わたしは白鳥さんと座るから、まつりちゃんは難波君のとなりね」
由依の腕をとって強引に座ったのは渡辺だ。
「ちょちょっと、私はカズと一緒に……」
「いいからいいから」
渡辺をぶん殴るわけにもいかず、由依はこちらをチラチラ見ながら、しぶしぶ腰を落ち着けた。
問題は気まずそうにオレのとなりに座るこの女。
鬼瓦まつり(清楚バージョン)である。
渡辺がアシスタントに選んだのは、まさかの鬼まつりだった。
こいつが役に立つとは思えないのだが、渡辺のことだから何か作戦があるのだろう。
進行方向にむかって左から順に、由依、渡辺、鬼まつり、オレの順に座っている。
そんなことより気になるのは、バスに乗り込む前に由依から聞いた、「これから行くキャンプ場でヴァリアントが活動してるかも」という一言だ。
確率は高くないものの、北欧組織の分析によるとその可能性があるらしい。
今心配してもしょうがないので、気にかけておく程度で良いだろう。
「あのさ、難波……」
鬼まつりがおずおずと話しかけてくる。
「なんだ?」
「いい天気だね」
「そうだな」
「キャンプって、中学校であったキャンプ学習くらいでしかいったことないから楽しみなんだ」
「そうなのか」
「うん、そうなの」
「そうか」
「……」
「……」
「いい天気だね」
「そうだな」
「ちょっと難波君! そんなんじゃ今日のキャンプ乗り切れないよ!」
数秒でうとうとしはじめるほど中身のない会話を交わしていたところに、ハイテンションで割り込んできたのは渡辺だ。
「バスでの会話とキャンプになんの関係が?」
「ここでいかに良い関係を築くかが、キャンプでトップを取る第一歩だよ!」
「キャンプに順位なんてあるのかよ」
「旅のしおり見てないの?」
「集合時間と場所は見たぞ」
「1ページ目だけじゃない!」
「ああいった資料は、見ておいてもどうせ関係ない話が始まるんだ」
「なんの話?」
「いや、なんでもない」
ブラック企業の話をここでするわけにもいかない。
「とにかく! 仲良くしよう! コミュニケーション大事!」
「将来、若い女に煙たがられるお局様になるなよ」
「女子高生に言う例えじゃなくない!? わたしは年なんてとらないから大丈夫なの!」
「そんなこと言ってられるのはいまのうちだけだ」
「難波君の方がおっさんくさいんだけど」
「いや、ピチピチだが?」
「ピチピチって……まあいいわ。とにかく、難波君とまつりちゃんがそんなことじゃ困るの。ほら、なんか会話して」
「そんなこと言われてもな……」
渡辺は「ほらほら」と鬼まつりを煽っている。
「えっと……いい天気だね」
botかな?
「そうだな」
あ、オレもか。
「ちょっと難波君、気の利いた返しをしなさいよ。女の子ががんばってんのよ?」
「今のオレが悪いの? がんばりが評価されるのは学生のうちだけ……ってわけでもないか」
頑張ってるように見せていることが、結果を出すことより大事だという上司は山ほどいるからな。
「くっ……今のはちょっと面白かったわ。その社会に疲れた系のキャラ、悪くないじゃない」
渡辺のツボが全然わからん。
もしかして、おっさんフェチか何かなのか?
「香澄ちゃん、もういいから……」
ほら、先に鬼まつりが音を上げてるじゃないか。
「よくないよ! ほらがんばって!」
「ええ……えっと、えっと……ご趣味は?」
「お見合いかよ」
「ほほほ、ここは若い二人にまかせて、退散しましょうかね」
渡辺が口に手を当て、わざとらしく笑ってみせる。
その向こう側から、由依がすごい目で睨んでるんだが!?
「おせっかいおばさん役か。ぴったりだな」
「誰に何がぴったりですって!?」
「3組の4人は仲いいなあ」「おまけに、美人揃いだ」「おれ、あの清楚なこがいいな あんなこいたっけ?」「いやあ、やっぱり白鳥お嬢様のツンツンさには誰も敵うまい」
バスのあちこちから好き勝手なセリフが聞こえてくる。
そんなこんなで、ある意味学生らしい騒がしさを乗せたバスは、キャンプ場へと到着したのだった。
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