第91話 6章:オレの義妹が戦い続ける必要なんてない(12)
オレは脇腹に突き刺さった合口を引き抜いた。
刃に障壁破壊の魔法がかけられている。
レベルとしては、由依のグングニルよりも数段落ちるものだ。
しかし、防壁を一度破壊するという効果のみをみれば、グングニルを上回る能力だ。
使い捨ての単一機能特化というところか。
脇腹が刺されるのと同時に、オレが常にまとっている障壁が貫かれた感覚があった。
合口はその時に魔力を全て使い切ったらしく、すでにただの刃物になっている。
「双葉、何か見えたのか?」
オレが刺されたのに気付くより早く、双葉は叫んでいた。
「長がゆっくりお兄ちゃんに近づいて、普通に刺したよ! なんだか長の姿はぼやけてるんだけど……今も首に!」
オレが慌ててのけぞると、首の皮が一枚、薄く切り裂かれた。
触れてみると、一筋の血が手についた。
こうも簡単にオレが見失う……いや、認識できていないのか?
単純な認識阻害魔法じゃない。
ここにいるとわかっていても、いないと思わされる魔法はなくはないが、集中しているオレでも看破できないなんてね。
しかも、オレより魔力の低い双葉には、ある程度見えているのだ。
そんなことがあるか?
いや……あるかもしれないな。
ヴァリアントに喰われた人間の記憶が消えること、人払いの効果が自動展開されること。
そういった奴らが持つ特徴を伸ばしてやれば、自身をこの世界にいないと認識させる魔法がつくれるかもしれない。
因果律に干渉する魔法だ。
瞬間移動と同様、人間には理屈上発動できない類のものだろう。
長と合成されたヴァリアントが得意だったのかもしれない。
だが、双葉が見えているのがなぜか気になるな。術の射程が短いのか?
いかん、双葉が狙われる!
技の性質上、相手の『目』を潰すのは当然だ。
そうなる前に――
「はっ!!」
オレは双葉にかけた防御魔法を破壊しない程度に威力を抑えた火炎魔法で、部屋を満たした。
これなら、長の能力は関係ない。
「ムチャをする!」
壁に開いた扉から、衣服や薄い髪の焼け焦げた長が逃げていく。
あの炎の中で無事とは、なかなか良い防御アイテムか何かを持っていたのだろう。
長の様子を見るに、それももう効果切れのようだが。
「双葉、オレの目になってくれ!」
「うん! あたしもやっと役に立てるよ」
双葉にさっきの魔法が効かない理由の考察は後だ。
オレは双葉の手を引きつつ、彼女に防御魔法をかけなおす。
既に長が逃げた扉は閉じている。
壁のデザインに紛れて、一見すると扉だとはわからない。
オレは扉に添えた手から振動破砕魔法を放つ。
――ドガアッ!
破壊した扉の向こうには、広い通路とエレベーターらしき施設がある。
念のため火炎魔法で廊下を満たす。
熱で蛍光灯が割れ、暗くなった通路に魔法で光を灯し、エレベーターの前へと進む。
エレベーターは一つ上のフロアーで止まったようだ。
近くに階段はなしか。
エレベーターを使うのは罠を考えると得策じゃないな。
オレは天井に穴を空けると、双葉を抱えて上のフロアへと飛び込んだ。
左右に伸びる廊下に雷魔法を放つ。
床と壁を這うように進んだ雷撃は、曲がり角の先や、ドアの空いている部屋を舐めるように満たしていく。
このフロアには一般人がいる可能性があるため、無抵抗な人間でもしばらく気絶する程度に威力を調節してある。
どこまでが一般人かと言われると、悩むところだが。
少なくとも、『組織』に騙されている人がいる可能性は無視できない。
「ぐああ!」「な、なんだ!?」「ぎゃあ!」
フロアのあちこちから悲鳴が上がる。
聴覚を強化して――
「くっ……あんなガキがここまでやるとは……」
見つけた!
悲鳴こそしなかったものの、長のつぶやきが聞こえた。
オレは双葉の手を引いて、長の方へと走る。
そこはスサノオの首がある部屋だった。
長はスサノオの首を液体から取り出し、その手にぶら下げていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます