第89話 6章:オレの義妹が戦い続ける必要なんてない(10)
そのバケモノは、人型と言っても、全身の筋肉隆々なサイクロプスのような体型だった。
何より特徴的なのは……。
「やりやがったな」
『何をかね?』
どこかに備え付けられたスピーカーから長の声が聞こえてくる。
カメラでこちらの様子も見ているのだろう。
「ヴァリアントを合成しまくりやがったな。ざっと100体ってところか……しかも、制御には人間を使ってる」
『ほう……一目で見抜くとは流石だな。だが、この合成鬼に勝てるかどうかは別問題だ』
しかも弱点になるであろう人間の頭部は、ヤツの体内を常に移動しているらしい。
バリアントにこういった術式が得意なヤツでもいるのだろうか。
魔族にも国中の人間を合成して肉塊の巨人に変えたヤツがいたが、その類いだろう。
100体と言っても、合成に使われている殆どは低鬼レベルだ。
だが、単純な魔力量という意味では、人間を遙かに凌ぐだろう。
「グオオオオオオォ……」
合成鬼は額に角を生やし、そこに魔力を集中した。
その角だけでも、成人男性の身長くらいはあるサイズだ。
チャージが早い!
「ガアアッ!!」
合成鬼が吠えると同時に、直径3メートルほどのビーム状の魔力砲がオレに向かって放たれた。
とりあえず……避ける!
オレは魔力砲の横を駆け抜け、合成鬼の首を切り落した。
しかし、合成鬼はそんなことなど微塵も気にせず、太い腕を振り回してきた。
そうなるよな!
オレはその腕を蹴って、距離を取る。
着地したオレに魔力砲が迫る!
なんだと!?
後ろの壁に反射した!?
魔力砲を掌で受け止めながら、壁にかかっている魔法を解析する。
硬度上昇に加えて、特定の魔力を反射する術式がかけられている。
合成鬼とのコンビネーションで、侵入者を撃退するためのしかけの一つというわけか。
この基地は、ヴァリアントに関する技術の粋が集められているのだろう。
頭部を再生させた合成鬼は、転がっている頭部に腕を伸ばし、吸収した。
作りからして予想通りだが、部位の区分けはなしか。
合成鬼は拳に魔力をため、オレに向かって振り下ろしてきた。
なんなく避けたオレだが、叩きつけられた魔力は床で反射し、天井へと吹き上げる。
フォースゲイザーかよ!
覚醒版は3回出そうだ。
余計なことを考えつつも、オレは合成鬼の腕を細切れにしていた。
しかし、サイコロサイズに切り裂いた肉片も、互いに引き寄せ合い、本体へと吸収された。
ならば!
オレは右手に黒刃の剣、左手に魔力で作り出した光の剣を構えた。
「グオオオオオ!」
そこへ合成鬼がつっこんでくる。
今度は両手に魔力を込められている。
まずは右!
オレは右腕を斬り飛ばしつつそれを避け、続く左手も同様に処理する。
それが囮だったと言わんばかりに、合成鬼は額の角から魔力砲が放たれた。
オレはそれを交差させた二本の剣で受け止め、魔力砲ごと合成鬼の体をバツの字に切り裂いた。
合成鬼の体内にあった人間の頭部も真っ二つにしている。
うずまく魔力の中で、ひときわ弱い部分。そこが弱点と見たのだ。
地響きを立てて合成鬼は倒れ伏した。
しかし、またしても再生を始める。
再生を始めたのは、体内にあった人間の頭部も同様だった。
脳ですらヴァリアントに浸食され、人間を辞めているか。
『すさまじい腕前だな。とても人間とは思えん……。だがどうだ! 魔力が続く限り、いくらでも再生するぞ!』
勝ち誇る長には悪いが、倒す方法は両手の指で足りないくらい思いつく。
純粋な戦闘となれば、オレのフィールドなのだ。
決めた。この手で行こう。
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