第一章「黒龍ノ目覚メ」

『伝説を獲る』




誰もが一度望むもの

だが、誰も容易でないもの

それでも誰もが掴めなくても、辿り着きたいもの


正しく死ぬか?派手に散るか?


いついかなる世界も、お前の自由だ。鎖なんてものはない。


もっと欲張っていい


もっと楽しめ


その生き様を奴らに見せつけてやれ


運命は、お前の、その拳に________________________________________






















『ピンポーン ピンポーン』


 目が覚めるとこの世のものとは思えない景色。ここは異世界!!?...................

と、いう期待もなく起きた8時半。またいつも通りの、退屈な朝を迎えた。

 「目がチカチカする...寝落ちしちゃったのかこりゃ」

 何年もの付き合いであるヘッド型ゲーム機『フルダイブビジョン』を外し、数え切れない程飽きた部屋を見渡す。打ちっぱなしのコンクリートに囲まれた1LDK。視線の先にはつけっぱなしにしてた大型PCが置かれていた。


『ピンポーン ピンポーン ピンポーン』


 耳障りなインターコールが小鳥の囀りをこれでもかとかき消す。すると、インターフォンのスピーカーから、無駄にダンディ味がこもる男の声が聞こえてきた。


「おーい寝坊助。いつまで寝てんだとっとと起きやがれ」

「乾さん!? ちょま早くないすか?」

「俺は時間通りに来て何が悪いのか恵ぃ。もしや夜中までVR(ぶる)ってたのかぁ? 昨日しっかりと仕事の話あるっつったよなぁ!!」


 そういやそうだった。そろそろオンラインゲームに依存しがちなってきたのが身を持って感じる。いや手遅れか?最近この思考のムーブが続いてる。もう考えるの飽きたな。

「あはは〜...40秒で支度するんでしばしお待ちを〜」

 健康的危機感を持ちつつも俺は、『フルダイブビジョン』の電源を落とし、ほんの少し乱れてきた長髪を整えようと足を動かした。チンタラ洗ってる時間はないので、一昨日買ったドライシャンプーでさっさと済ましていく。


「お前忘れてるだろからもう一度言うぞ。◯◯通りで「牧村」つう男が知り合いのシマを荒らしてんだと。なんとも、アダルトディスクと言いながら中身動物のにすり替えて騙し取ってんだとか」

「ご親切にどうも。これまた微妙なタイプのクソ野郎っすね」

「こうゆうのはいち早くしねえとな」

「へいへい。てなわけでオレもういけます」


『電脳空間にて、新たな伝説の夜が始まる... ストリートアクション型VRMMO「ドラゴンレジェンド」!』


 気合いの入った声で熱烈なプロモーションをしているcmが目に入った。

『ドラゴンレジェンド』。かつてオワコンの一つとして衰退しつつあったジャンル『裏社会』をテーマに、斬新かつ超次元的なアクションを取り入れた人気タイトルである。次世代のVRMMO覇権を握っており、近々『ローズファンタジア』を超えるタイトルだと聞く。


「正直いつかやってみたいけど、金がないんだよなぁ」


『近日!あのゲームとコラボキャンペーン開催!?続報を___』


 終わりかけのcmを待たずに、PCを静かにスリープ状態に移した。金がたんまり貯まったら、絶対にデビューしてやるぞと心に誓い、ドアノブをぎゅっと握った、ゆっくりと玄関のドアを開けるとそのそばには、目尻が下がりつつも鋭い眼光を保つ、ワインレッドカラースーツの男が聳え立っていた。


___佐々木組若頭補佐

        乾 勇司________


「じゃあ、いつも通りによろしく頼むぜ『佐々木の青龍』。期待してんだからよっ」

「青龍って...やっぱり恥ずかしいんすけど。ま、終わったら美味い飯。期待してます」


___乾勇司直属『何でも屋』

        東條 恵________








第一章 「黒龍ノ目覚メ」






        



_________同時期 桜雷町館山マンション202号室_________


『KEEP OUT』のシールが縦横無尽に巻かれた2階の隅の部屋。ある一般男性が巷を騒がせている連続殺人事件に巻き込まれ、死亡していた。徹底的に清潔さがが保たれたクリーム色を上書きするかのように、黒味のかかった赤色の体液がべっとりとついていた。

「志摩刑事!お疲れ様です!」

「うす。よろしく」


___福島県警生活安全部サイバー犯罪対策科情報係

        志摩 正利________


「望月君すまんね」


 捜査一課の餅月刑事と長年面識があるのか、志摩さんはポンと彼の肩を叩く。


「? そちらのお連れの方、『初動捜査』担当ではないのでは?」

「ああ、彼はお前に以前紹介した」


 2人がこちらを見つめると、俺は我ながら慣れた手つきで警察手帳を提示した。


「猿渡です。今回の現場、少しだけどうしても私の目で確認したく、志摩刑事に同行させてもらいました」


___福島県警生活安全部サイバー犯罪対策科第三係

        猿渡 音也________


「と、いうことだ」

「把握しました。では、奥へどうぞ」


 マルガイこと南雲義晴24歳。手には『フルダイブビジョン』を掴んだまま、ゲーミングチェアごと倒れているのが視覚にうつった。死後の顔をそぉっと確認したが、ずっと長く見るには耐えられない、おぞましい表情で固まっていた。


 監察によると、既に深夜24時〜26時、部屋から侵入した連続殺人により指名手配されていたマル被による鈍器での撲死と、粗方推定が完了していた。そいつは殺人による証拠隠滅に長けており、解決に困難との話があったようだが、ここまでチープな幕切れとなるのか、流石の捜査中の人達も疑問に思っている。


 以前起きた2件のとは違い、鍵を無理矢理破壊し侵入したこと、外部からではなく、一室の備品で殺害に及んだこと、端から端まで不自然なほどに大雑把である。安堵の息をついた一方、やるせない気持ちになるのも同情しかない。


「音也。大体情報得たなら顔確認」

「既にファイル開きました。...顔一致です。見てください志摩さん」


 俺と志摩さんは事前にスマホにまとめた資料のPDFファイルをじっと見つめた。

南雲義晴の顔写真の横に表示されているもう一枚の写真。現実の顔とは似つかない二次元的な顔は、現在流行中のVRMMO『ドラレジェ』で南雲義晴のもう一つの顔。いわゆるアバターである。


「読み通りと繋がっています」

「ついにきな臭くなってきたなぁ...」

 頭を抱えた志摩さんのその目は、南雲義晴が生前まで握りしめていた『フルダイブビジョン』を捉えていた。






__________MMOネット犯罪No.056.PDF_____________________________

 フルダイブビジョンを用いたVRMMOゲーム数タイトルからそれぞれ数名のプレイヤーが、強制ログアウト・データ消失後、行方不明・死亡が相次いでいる。

 各員は一覧のゲームタイトルの情報収集を求む。

『幻想奇譚ローズファンタジア』 

『ロストブレイン』

『Unlimited・Beast・War』

『化身列伝 ドラゴンレジェンド』

(一部抜粋)

______________________________________













_________8時40分 桜雷町 裏路地

「ぜぇ...ぜぇ...ここまで走りゃぁ...追ってこないだろ...」




「でぇぇええりゃぁあああああ!!!!!」

「ちょ............はぁああああ!?」


 俺が積もりに積もった段ボールのゴミの山を強く蹴り上げた。派手にぶちまけたその先には行き止まりで息を切らしてた牧村がそこにいた。


「牧村さ〜ん。そろそろ諦めたらどうですか?オレもう走りたくないんすけど」

「クソがぁ...この商売が俺の唯一の生きる糧なのによお!」


 その男の左手には震えながらも、アダルト(正確にはアニマル)ブルーレイを大事そうに持っていた。


「だからって未来ある若人から側騙して生計立てるのはかっこ悪いよ〜。警察には通報しないんで、こうゆうの二度としないでもらえるかな?。あっついでに金も全部置いといて。少年達に返すべきだろうし」

「なな舐めやがってぇ!」


 そうゆうと牧村はジャンパーの右ポケットから、スタンガンを取り出した。防犯用とは言え、一度でも食らえばロクな動きができなくなる。使う相手が最弱でも相当気をつけなければならなくなってきた。すぐ様ファイティングポーズを取った。

喧嘩の合図は整ったという意思を相手に否応なく見せつけた。


「なーるほど。まいいや。そんな自信あんなら、どっからでもどうぞ」

「どうなっても知らねぇぞ!」







<用語集>

※しばし待たれよ。慣れない作業だから頭痛いでごわす。

 

 




 

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