第30話

 プップクプー! パラパラパッパッパー♪


「うーん……」


 けたたましいラッパの音に起こされ、私はもそもそと探り当てたスマホを切りながら起き上がる。半分寝惚けたまま着替えて顔を洗い、朝食を終えたタイミングでチャイムが鳴る。


「ふあぁ~、行ってきまーす」


 大欠伸をしながらドアを開ければ、いつものように夜羽が門の前で待っていた。私と目が合うと、ぱっと頬を紅潮させて微笑む。


「おはよう、ミトちゃん」

「おはよ、よっぴ」

「……前から思ってたけどさ、その『よっぴ』ってもうやめない? 高校生なんだから」


 生意気にも口を尖らせて文句言ってくる。まあ、いつもそう呼んでる訳じゃないけど、このあだ名にも年季入ってきてるからなあ。


「ダメ? 特別な感じがして私は好きなんだけど。嫌なら『ハニー』とかにしようか?」

「か、からかわないでよ。ミトちゃんが呼びたいんなら別にいいけどさぁ……」


 ぼそぼそと小声で愚痴る夜羽。関係が変わっても相変わらずだ。昨日から付き合う事になった私たちだけど、だからっていきなりイチャイチャし出す事はない。何せ長い、長過ぎる付き合いなのだから、距離も私たちのペースでゆっくり進めていきたい。


(でも、ちょっとだけなら……)


「ぴゃっ」


 夜羽が仰天して飛び上がった。こちらを向いたその顔は赤らんでいて、目は戸惑いに潤んでいる。

 私が急に手を握ってきたものだから、思いっきり意識してしまったようだ。


「ミ、ミトちゃ……」

「いいでしょ、彼女なんだから……ダメ?」


 ブルブルッと痙攣みたいに首を振ると、夜羽はぎゅっと手を握り返してきた。


「ダメじゃない。嬉しい!」

「そう? じゃ、急ぎましょうか」

「うん!!」


 傍目からは物凄く舞い上がっているのは夜羽の方だったけど、本当は私だって浮かれていた。まさか弟みたいに思ってた夜羽とこんな関係になるとは、少し前まで思いもしなかった。

 くすぐったくて……でも何か、悪くない。



 私たちが付き合いだした事は、めばえには速攻でバレていた。


「そっか、あんたたちようやくまとまったか」

「え……知ってたの?」

「まあね、角笛君が気がある事知らないのって、あんたくらいよ。でも弟にしか思われてないのに、困るだろうから言わないでって口止めされてたのよね」


 そうだったんだ……私ったらこの歳になるまで気付かなかったなんて、相当鈍感だったのね。でも確かに、気弱な夜羽に告白されたところで、甘えてるだけだって突き放してたかも。それもお見通しだったからこそ、怒ってたのかも……


「正直まだ自分の気持ちは固まってないんだけど、よっぴとはちゃんと向き合うつもりでいるわよ」

「うん、それがいいね」


 授業が終わり、帰り支度をしながらお喋りしていると、窓の外を見ていた他の生徒がざわついた。


「お、おい見ろよ。正門のとこ、すっげえ美人が立ってるぞ」

「どれどれ!」


 ちらりとそちらを見たが、既に正門側の窓にはびっしり見物人が張り付いていて、隙間から見れそうにない。まさか注目されている訪問客が私たちに関係あるなど、この時は思いもしなかった。


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