第6話
ちょっと話があるんだけど、と問答無用で連れて行かれたのは、人気のない校舎裏。ベタだなー、リンチされんのかしら私……
「あんたさー、調子乗るのもいい加減にしてくれる?」
「はい……?」
「牧神君の彼女面されるってだけでも気に入らないのに、平気で他の男にもいい顔するって、舐めてんの?」
予想はしてたけど、やっぱりこの人たち、ヒロシ先輩のファンだったか。他の男にもって、食堂で夜羽たちとお昼食べてた事? 学校ではなるべく普通の先輩後輩として振る舞ってたし、今更どうのこうの言われる筋合いないんですけど。
「それなら安心してください、ヒロ……牧神先輩とは別れましたから」
「はぁ!?」
「ふざけんなよ、このビッチが! 牧神君がかわいそうだと思わないの!?」
ライバルが消えて安心するかと思いきや、却って逆上させてしまったようだ。それにしても……ビッチって? 一体何が起こってるの?
「あんた、大勢の男を毎日とっかえひっかえ股開いてて、牧神君はキープの一人だったんでしょ! それが見つかって咎められたら、逆ギレして着拒されたって、牧神君から聞いたのよ」
「!? ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
言いがかりにもほどがある。それをされていたのは、私の方なのに。だけど先輩たちは聞く耳を持ってくれない。学校で一番モテるイケメンと、元カノの私……ヒロシ先輩ファンにとってどちらを信じるか、迷うまでもないのだ。こんな理不尽な事って……
「あんたには、ちょっと痛い目見てもらわないとねぇ……」
「平気じゃない? こいつにとってはいつもの事みたいだから」
「言えてる、キャハハハハ」
言葉も出ない私を前に、先輩はスマホを弄って誰かを呼び出した。逃げ出そうにも、両側から腕を掴まれていて身動きが取れない。やばい、この人たち本気だ!
そこへ、制服を着崩したガラの悪そうな男子生徒が数人やってくる。
「こいつか、あの牧神の彼女ってやつ」
「そうそう、勘違いしてるビッチちゃんだからさぁ、ちょーっとお灸据えてやってよ。誰も来ない空き教室押さえといたから」
「女って怖ぇーな。けどまぁ、やれるなら何でもいいか」
よくない!! 勘違いしてるのはあんたらだよ!!
そう叫びたいのに、これから行われる事への恐怖で声は出なかった。
(誰か!!)
「ま、待て!」
その時、校舎の陰から誰かが飛び出してきた。そのか細い声は――
「夜羽!?」
「み、み、美酉ちゃんを離せ! 悪い事をし、したらゆ、ゆゆ許さないからな!」
夜羽……来てくれたのはいいけど、ガクガク震えるほど怖いなら、危ないから人を呼んできてよ。呆気に取られる私をよそに、夜羽は駆け寄ろうとこちらへ突っ込んでくる。
「たぁああああ~」
目! 目は開けて!!
ガンッ
「うぎゃっ!」
夜羽は私のもとへ来る前に、不良のパンチ一発で伸びてしまった。
「ぎゃははは! 何だコイツ、弱ぇ~!」
「生意気な口利く前に潰ししまおうぜ」
「夜羽!」
地面に倒れたまま動かない夜羽に駆け寄ろうとするのを、先輩たちが通せんぼする。
「待ちなよ。この子もあんたのキープ君なんでしょ?」
「違……夜羽は私の、一番大切な!」
「ふーん、彼が本命だったんだ。じゃあ返す訳にはいかない。あたしらが預かっとくから、あんたはこいつらと遊んでやんなよ。逆らったら……どうなるか分かってるよね?」
そんな! 助けに来てくれた夜羽を人質に取られ、私は絶望した。もう一人の先輩は夜羽が誰だか知っていたらしく、戸惑った声を上げる。
「ちょっと。彼、1年の『天使』クンじゃん……牧神君ほどじゃないけど、結構隠れファン多いよ」
「いいじゃん、どうせこのビッチに騙されてんでしょ? あたしらが助け出してあげたって事で、恩も売れるし」
「……騙しているのは、牧神先輩です」
夜羽を巻き込んでしまった事で、私の震えは止まった。怖気づいてる場合じゃない、夜羽だけでも逃がさないと。
「あ?」
「別れたのは、牧神先輩が何人もの女の人と同時に付き合っていたからですっ! 私の事も、飽きたら他の人に渡すみたいな事言ってて、だから……ぐっ!」
お腹に衝撃が走り、痛みと吐き気で蹲る。先輩たちの冷たい目にぞっとした。
「もう黙りなよ。天使クンを返して欲しければ、黙って言う事聞いてりゃいいの」
そう言って髪を掴んできた先輩は、引っ張られた痛みで顔を歪める私を無表情で一瞥した後、不良たちに引き渡した。
「夜羽……」
「こんな時に男の心配かよ? さすが慣れてんなぁ?」
私の肩に手を回し、連れて行こうとする不良の笑い声にも、何も返せなかった。
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