第49話 団体試験の一発目! 規格外見せつけます!


当然ながら昇格試験の題目は、受験するランクによって、大きく異なる。


ただ一つ全てに共通しているのは、直前までその内容が一切伏せられていること。

いわゆる一夜漬け的な試験対策を避けるために、徹底的な箝口令を敷いているらしい。


ランクごとに集められた冒険者たちの話題は、それで持ちきりだった。一部では、予想大会が始まっている。


それも無理はない。

Aランク志望者の一次試験集合場所は、『ツクヨ池』。

意外にも、初級ダンジョンであったためだ。


「余裕じゃん」「今回楽勝だわ」なんて、他人事でも心配になるような声も聞かれた。


「こうして見ると、Aランク志願者って、結構いるもんなんだな、Cランク試験の方が人少なかったかも……?」

「まぁAランクって、冒険者みんなの憧れだからねー。

 全体数が減っても、ここを目指す人は相変わらず多いみたい。そもそも合格率が低いから再受験って人もたくさんいるんだよ。

 いわば……Aランク浪人ってやつ?」

「嫌な言い方してあげるなよ。五浪してる人もいるかもだろー」


事ここに及んで、変な邪推をしてもしょうがない。


ミリリと、ちょっとした雑談を交わす。

がっちがちに緊張しきっていたモニカさんだったが、少し笑ってくれた。


そこへ、いよいよ試験官が現れる。

一瞬にして、嘘のように静まった受験者に発表された試験の内容は、こうだ。


「今から、参加者の皆さまにはパーティーで協力して、落とし物集めをしてもらいます」


へ? は? ふえ?

腑抜けた声が、各所から上がった。


すかさず、試験官が説明を加える。


「最近は、初級ダンジョンを中心に活動する冒険者が増えています。

 その分落とし物やなくし物の類も多いのです。

 Aランク冒険者たる者、そういった困りごとにも柔軟に対応できる存在であるべきです」


なにそれもはや、運ゲーじゃね? 幸運スキル持ちのやつズルくね?


誰かがこんな不平を呟いていたが、試験官はもちろん取り合わなかった。


「合否は、拾遺物の数だけではなく、フィールドに散らばった試験官らが総合的に判定します。運は一要素に過ぎません。

 この試験を通過した方のみ、団体部門二次試験に進むことを認めます。

 ……では、制限時間は三十分。はじめ!」


やけに短い。

たぶん誰もが、そう思った。


寄りかたまっていた志願者たちが、一気にスタート地点から駆け出す。


蜘蛛の子を散らすような広がり方であった。

俺たちは、思いっきり取り残される。


「ヨシュアさん、私たちも早く行かなきゃなんじゃ……」


モニカさんが焦ったように、俺の袖を引いていた。


「逆ですよ。むしろ冷静になったほうがいいかなって思います」

「でも、制限時間が………!」

「だからこそ、ですよ。やみくもに探したって、それこそ効率悪いでしょ?」


そう、なにより。


参加者の多く、というか、ほとんどの人が時間に囚われて忘れてしまっているが、そもそも前提が異なる。


ーーーーこれはあくまで、団体戦なのだ。


チームの合計が多ければ、それで通過というものでもない。

そんなルールなら、ミリリのようにサポートメンバーがAランクなだけで大有利となってしまう。


『試験官が総合的に判定する』


そう、たしかに聞いていた。


つま単独行動に走り、協力する姿勢を見せなければ、それだけで落ちる可能性さえある。


最終的に見られているのは、

『個がいかに、集団で力を発揮できているか』だ。


「でも、落とし物探しで、どうやって協力なんて……?」


モニカさんが怪訝な顔になる。

俺は、二人に耳を貸すよう手招きをした。


少しの打ち合わせののち、俺たちは軽い円陣を組む。

手を三つ中心で重ねて、


「いくよー、ふぁいっ!」


ミリリの声で、輪を弾けさせた。

参加者の中、最後の最後に始発地点を出発する。


苦戦する他の参加者たちを尻目に、迷わず向かったのは、名前の由来となっているツクヨ池の岸辺だ。


俺は知っていた。

この池の中には、たくさんの落とし物が沈んでいる。


サーニャを助けたときに、見た覚えがあったのだ。


「風の龍よ、俺の剣に宿れ! 疾風竜!」


その時と同じ魔法を繰り出す。

ただし、レベルが上がっている分、剣が進化した分、威力には歴然の差があった。


池の水の大半を、風の回転により巻き上げる。

思った通りだ。多種多様な落とし物がわんさか出てくる。


なんだなんだ、と周りにいた参加者たちが、にわかに騒がしくなっていた。


中には火事場ならぬ、池泥棒。落とし物を奪いに来る参加者もいたが、


「厳しき檻となれ、『光の牢』!」


特訓した光魔法を用いて、モニカさんががっちり確保。

サポーターのミリリは、魔道を用いて、それを強化してくれた。


あとは水が全て下へ抜けるまで耐えぬけば、三十分どころか、約三分。

圧倒的な数の拾遺物を、俺たちは手中に収めていた。


「そこの三人、合格…………!! 発想も個人技も素晴らしいが、あまりに素晴らしい連携だ……!」


それを見ていた試験官の一人が、唖然とした顔で告げる。

出遅れたが、文句なしの一抜けだったらしい。


「ヨシュアさん! や、やったよ!」

「やっぱりヨシュアって頭もキレるよねっ。いえいっ!」


手を高く挙げて、ハイタッチを交わす。

モニカさんにも、元通りの余裕ある笑顔が戻っていた。


…………というか、やべぇ。

やる気が高まり過ぎて、普通に目立っちゃったよ。

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