第41話 開かれた祝賀会で、まさかのキス?
町人たちより一足先、俺たちはヤマタウンへと戻る。
町に帰ってきてすぐのところ、小さな女の子が全力で手を振り、こちらへ駆けてきた。
腹に力を込めて受け止めれば、
「やっぱりヨシュっち、ほんと頼りになるっ!!」
ルリが涙ながらに、しわくちゃの笑顔を見せていた。
その後ろ、ソフィアがそれを見守る。
彼女の目にも、ほんのりと光るものがあった。
「それで、疫病の方はこっちでも治ったのか?」
「うん! もうばっちりすぎ。急にみんなの体調が戻って、今はすっかり。
ヨシュっちにお礼が言いたいの一点張りだよ。祝宴どころか、石像作りたいって人もいるくらい!」
……まさかヤマタウンでも、そんなことになっているとは。
ミリリがくすくす笑う。
「ヨシュア、目立ちたくないとか言ってられなくなったね?」
「……まぁ、幸いなのはここが田舎町ってことかな」
どれだけ噂されようが、普段活動拠点としているライトシティまでは届かないだろう、うん。
「それより、二人もありがとうな。色々と助かったよ」
「……ヨシュアくんの言うことなら、なんでもする」「ヨシュっち、それルリのセリフだし!」
♢
「病人らの本復を、ヨシュアさまに感謝して…………乾杯!」
その後、二つの町合同での宴会は、実に派手に催された。
自然に恵まれ、畑を広げる土地だけはある。
並んだ料理には、地場の野菜がふんだんに使われて、もちろんチーズも種類豊富に並ぶ。
ミリリにとっては極楽空間、さぞ夢中になっているかと思えば、
「ど、どうしたんだ? 体調でも悪いのか?」
なぜか、俺のそばを離れない。
「ううん、元気そのもの! だけどね……」
「だけど?」
「もう〜、恥ずかしいけど言うよっ。私は、ヨシュアを取られたくないのっ。
見て、あの子たち!」
ミリリが指差す先には、頬を染めていたり、髪を繕っていたり、とろんとした目を向ける町娘たちが、こちらを見ている。
完全に、俺はロックオンされていた。
目が合うと、あっという間に周りを囲まれる。
「わ、私を街に連れ出してくれませんか! 勇者さま!」
「そんな子より、あたしと。胸には自信があるんだけど、どう?」
「ちょっと抜け駆けはダメよ! ここは間をとって私を!」
なんだこれ、なんだこれ。
慣れない状況にも程がある。俺がタジタジしていると、後ろから、両腕を引かれる。
「ヨシュっち、モテモテ〜! ちょっと妬いちゃうかも」
「ヨシュアぁ! だめだよっ。私の隣にいるって約束だよぉっ!!」
ルリに、ミリリだった。
とどめとばかり、俺の首にしなやかな腕が巻きついてくる。
「……ヨシュアくんは渡さない」
ソフィアだ。背後に柔らかなものが、しっかりあたる。
控えめながら、弾力はたしかな主張をしていた。
ソフィアの声は、きゃいきゃい黄色い声で満ちていた俺の周りを引き裂くかのよう。
端的に言えば、どす黒かった。
「マジのやつだ、目がマジだ……」「綺麗すぎて怖い、あの人」「あ、後にします〜」
……なんだか分からないけれど、人払いができた。
おかげさま、ちょっと落ち着いたところで、俺はルリへ尋ねる。
「で、ルリは今後どうすんの」
前パーティーを辞めたときは、「急いで実家に帰らねばならないから」と言っていた。
その原因であった疫病が解決したのだ。再度考える必要があろう。
「んー、悩んでたんだけどー。もうちょっとヤマタウンに残ろうかなって」
「……そっか」
意外なことだった。
ルリのことだから、すぐにでも冒険に行きたがると思っていた。
「ヨシュっちのおかげで、そうしようかなって決められたんだよね。
色んな人の治療してたら、ヒーラーとして町に残るのもアリよりかなって」
「…………それのどこに、俺のおかげがあるんだよ」
「全部じゃんか! 自分のヒールがまだまだなことにも気づいたし。なによりさぁ。
今回、ヨシュっちのおかげで、たくさんの人を救えたじゃん? だから、その人たちの今後を守っていくのは、ルリの務めかな、って」
ルリはそこで言葉を切り、くるっと俺に背を向ける。
「…………あのさ、ヨシュっち。どう思う、この決断」
「ルリが決めたことなら、いいんじゃないの。応援するよ」
「じ、じゃあ!」
ルリは突然に再び振り返った。つっと背伸びをしたかと思えば、とんと頬になにかがあたる。
「…………え」
思わず手で押さえにかかって、少し。気付いた。
………キスをされたらしい。じわっとした熱が頬に残る。
「ルリなりのヨシュっちへの応援! あと、ルリの気持ちというか……。あーもうわかんないけど! 本気だから!」
ルリが小さな足を目一杯広げ、どこへやら駆けていく。
「ママのバカ! 恥ずかしすぎじゃん!」
こんな悲鳴を上げていたから、恐らくルリママの入れ知恵だったのだろう。
「思わぬ敵…………。ルリ、油断ならない」
「ちょっとソフィアちゃん!? 目が笑ってないよっ!? 羨ましいのは分かるけど!」
「次はうちが貰う。ミリリにも渡さない」
祝福に包まれる一角、再び場が荒れ始める。
……たぶん、別れの挨拶的なやつだよな?
俺はなかなか落ち着かない胸を押さえつつ、そう思うのだった。
♢
そして、その頃ーーーー
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