第39話 サンタナのせい、レンタル冒険者は悪者だと疑われますが……?


俺とミリリは、探知したサンタナの居場所へと足を向ける。


「ぜーったい、変な目的だよ! またヨシュアに危害を加えるつもりなのかも……。

 まぁ無理だろうけどねー」


ミリリは途中、こんな予測を立てていた。


さて、どうだろうか。

考えている間もなく、『広範探知(高)』が示した、サンタナのいる地点へたどり着く。


とある町の中のようだ。

門をくぐって、ヤマタウンと似た作りの町を少し見渡していた時である。


「貴様らは何者だ!?」


いきなり、鍬を向けられた。


とりあえず、歓迎されていないことは伝わってくる。


「……今日はなんなんだまったく。ただでさえ疫病で人手不足に困ってるってのに。

 なんだって次から次へ、変な来訪者が来るんだ。あの、『レンタル冒険者』といい」

「えっ、それって私たちのことですけど……。なんで知ってるの?」


ミリリが首をひねる。

俺はといえば、いやーな予感がしていた。首筋を一筋汗が流れる。


「お前ら、あいつの仲間か! なおさら通すわけにはいかん!」


……ほら、こうなっちゃう。


町人は、指笛を吹いた。


危険を知らせたのだろう、複数の武装した男たちが家家から飛び出してくる。


「よ、ヨシュア! どういうことっ?」

「大方サンタナのことだから、『レンタル冒険者』だって、身分偽ってたんじゃねぇの」


目的は、俺たちの印象を利用するため。


もしくは、『レンタル冒険者』の名を騙り、悪事を行うことで俺の評価を下げるため、だろうか。


いずれにせよ、厄介なことになった。

たくさんの武器が向けられるなか、ミリリは身振り手振り必死で訴える。


「偽物です! そのレンタル冒険者は、にーせもーのー! 私たちが本物ですっ」

「証拠がないだろう! 貴様らが本物だという証拠が」

「そ、それは…………」


ミリリは言葉をなくして、手を下ろした。


手柄を誇示するみたいで嫌だし、なにより目立ってしまう。


苦渋の決断だが、こうなったら、しょうがない。

俺はミリリを制し、身体を前にやる。


「少なくとも、俺たちがあなた方に害をなさないって証拠ならありますよ」

「…………なんだ、それは?」

「まぁ、見ててください」


こんなに早く使うとは思わなかったが、今使わない手はない。

俺は、先ほどもらったばかりの笛を吹く。


すると、なにもなかったはずの空間から、


『呼んだか。思いのほか早かったな、ヨシュア』

「あぁ、悪い。ちょっと厄介なことになっててな。悪人だと疑われてるんだよ」


何度見ても、神秘的なたたずまい。

白老狼がその姿を顕現する。


町人の一人は、その姿を目にしたことがあったらしい。


「ま、ま、間違いない! 本物の白老狼様だ!」

『いかにも。当方こそ、白老狼。神の使いにより、この山を司る神獣』


町人たちに、ざわめきが広がっていく。


『民よ。よく聞け。彼ら、当方を救ってくれた恩人であり、主と言っても過言ない。

 この町の水も、彼らのおかげで清潔に戻ったのだ。

 丁重に扱うと良い』

「……いや、そこまでは求めてないんだけどな?」

『よいではないか。ヨシュアを雑に扱うものは、当方が許さぬ』


その言葉に、町人たちはすぐさま反応を見せた。

揃って武器を投げ捨て、一人が土下座をすると、みんなが次々に膝をついていく。


「「申し訳ありません! 大変失礼いたしました! どうかこの通り、ご無礼をお許しください!」」


「「この度は、お助けいただきありがとうございます! 町の英雄と呼ばせてください!」」


……いやいや、やりすぎだって。


「び、びっくりする手のひら返しだね?」

「まぁ、元はといえばサンタナが『レンタル冒険者』だなんて嘘ついたせいだし。

 別に謝らなくてもいいんだけどな」


町人たちの地面についた頭はなかなか上がらなかった。


これ以上、萎縮されても困る。

俺は白老狼に礼を言って、それで引っ込んでもらうこととした。


『そうか? もっとその方らを敬うべきだと思うが…………』


まだ言いたりなさそうだったが、むしろすでに過剰だ。

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