第8話 レンタル冒険者としての一歩め、始まりました。普通にしていたはずが、つい目立ってしまったら……。変な奴らに絡まれたんだが……?

初級者向けダンジョン、ツクヨ池。


俺がそこへ踏み入るのは、随分久しぶりのことだった。


実に二年ぶり。

ちょうど今回の依頼人・サーニャと同じく、冒険者になってすぐの頃、腕試しにとパーティーでここへやってきた。


もっとも、幼少期の頃から鍛錬を積み重ねた結果、その時点で俺のレベルは150。


手加減なしに戦えば、敵ではなかったが、俺はあくまで『平均』を貫き通した。


「わっ、久しぶりに見たよ〜! 水兵ガエル! 懐かしいなぁ」


ミリリも訪れたのは、かなり前のことらしい。


「そういえば、ミリリって冒険者レベルはいくつなんだ?」

「私? 私はね、今レベル75! どう、同年代じゃかなり強いでしょ? 冒険者ランクもA級だよ!」


えっへん、と咳払いをするミリリ。


冒険者ランクまでAとは、想像以上だった。

初級から始まるこのランクは、自動表示のレベルとは別に、ギルドが格付けをするもの。


試験の結果で判定されるので、『レベルは高いが実戦は皆無』といった冒険者は弾かれる。


「そう言うヨシュアは? 私の見立てだと、かなり強いよね。レベルとか、私の倍以上あるんじゃない!?」


たしかに、350はあるけれども。


「さぁ? レベルはともかく、俺はCランク冒険者だよ」


俺は答えをはぐらかす。

実際、パーティーメンバーに合わせていたため、俺自体のランクはCのままだ。


冒険者レベルを正直に言ってしまえば、サーニャが混乱するのは避けられないだろう。


彼女は、ミリリのレベルを聞いた時点で、呆然としていた。

卒倒してしまうやもしれない。


と、先ほどの水平ガエルが俺たちの前へ飛び出してきた。


「なぁ、サーニャ。試しに戦ってみたら? 危険度Eランクの魔物だし、その小槍があれば倒せると思うよ」

「い、いいんですか? あたしが?」

「もちろん。俺たちは君に従うよ。君に借りられてるわけだし」


ミリリが大きく首を振って、賛同してくれる。

俺たちに背中を押され、サーニャは恐る恐る小槍を手に取った。


盾を必死に前へ突き出しながら、ゆっくりと水兵ガエルに近づく。


初心者らしく、防御を中心にする心がけはいいが、


「なっ、きゃっ、跳んだ!?」


真上がガラ空きだ。


「ヨシュア! 大丈夫かな!?」

「ミリリ、分かってるよ。任せてくれって」


俺は空中を移動する水兵ガエルへ向けて、雷魔法を閉じ込めた『閃光玉』を投げつける。


こんなこともあろうかと、懐に忍ばせていたのだ。


水平ガエルは怯んで動きが鈍くなり、垂直に落下しはじめた。


「今だ、サーニャ! 一、二、三で魔力を込めて前へ!」

「は、はいっ」


彼女は忠実に、槍を突き出す。


見事、その穂は水兵ガエルの喉元を捉えていた。

ドロップアイテムである、『カエルの冠』がその場に残る。


「やった……? もしかして今、あたしがやった?」

「うん。紛れもなくな」


はじめての魔物討伐だったらしい。

サーニャはしげしげと武器である小槍を見つめる。


喜びを噛み締めているようだった。


見ていたミリリが、ぼそりとこぼす。


「…………すごいね、ヨシュア」

「あぁ。はじめてで一発で倒すなんて、なかなか才能がありそうだ」

「サーニャちゃんもそうだけどさ、君だよ、君!

 私は『危ないから守ってあげて!』ってつもりだったのに、手柄まで本人に取らせちゃうなんて。

 そこまで計算してやったんだよね。分かるよ、私。

 ほんと何者なの?」


……まさか見抜かれているとは。


このミリリという少女。やはり、ただものではなさそうだ。


「大したことじゃないって。ツクヨ池の周辺は、水属性の魔物が多いしな。

 役に立つかと思って、持ち歩いてたんだよ」

「ううん、すごすぎるよっ。そんなところまで頭回るなんて。ちょっと待って、今も鳥肌立ってるかも……」


ミリリは、肩当ての上から、二の腕をさする。


完全に油断していたところ、次なる魔物、巨大バッタが草むらから飛び出してきた。


サーニャは、反応できていない。

ミリリがその護衛についてくれたので、俺は代わりに剣を抜く。


虫属の魔物には、炎だ。周りへ引火せぬよう水辺まで引きつけて、


「燃えよ、我が太刀! 『火剣』!」


抜刀。撫で斬りにしてやった。


「……本当に短剣だけじゃなくて、長剣も使えるんだね! ヨシュア!」

「そうか? 正直、微妙だったな、今のは」


適性はあれど、鍛錬が欠けていては詮方ない。

習熟度B判定も頷ける。


逆に言えば、剣はまだまだ上手くなる余地がありそうだ。


「はい、あたしもそう思いますっ。敵なしって感じかも……」


美少女二人に褒めそやされる。

ちょっとやり過ぎてしまっただろうか。


周囲にいた冒険者たちも、こちらに目をやっていた。


……もっと『平均』的に振る舞わねば。


俺が決意を新たにして、腕組み。俯いていたところ、


「なんだぁ、おめぇら。調子乗りやがってよぉ。大した実力もねぇのに騒いでんじゃねぇぞ、こら! 目立ちやがって!」


うわっ、見るからに厄介なのがきたよ。


道を、ゴロツキに塞がれていた。

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