ノラハンターテスカ~ファンタジー世界魔法少女物語~

XX

1章 誕生! ノラハンターテスカ!

第1話 ヒカリ様!

 ウチの名前はテスカ・トリポカ。

 葉秘はひめ元年生まれの14才。ゴール王国の地方都市・スタートの街で寺子屋の8年生やっとる女子や。


 実家はお好み焼き屋。

 実はウチのオトンとオカン、帰化人でな。


 ウチが生まれる前に、ふたりして、ゴール王国の隣のカンサイ地区から逃げてきよったんや。

 こんなところでは俺らは幸せになれない、ってな。


 何せカンサイ地区、10年スパンで国が滅びよるさかいに、通貨ってもんがあらへんのや。


 国が通貨の価値を保証しても、その国がいつ滅んでしまうか分からんから、誰も使いたがらんの。

 ほんと、ろくでもない土地やろ?


 ウチもそう思う。


 で、代わりにお金の代わりに流通してるのが、米。


 米を250グラムずつ計り取り、それを1ヒャッハーと数えて、それで商売を成立させる。


 お米なら国が滅んでも無価値にならない、ってなもんやね。

 まぁ、1年経ったら食えんようになって、意味なくなるんやけどね。


 そんな事情から、カンサイ地区の人間は貯金をする習慣があらへん。

 米を枯飯にして、長期保存し、貯金を成し遂げようとする発想も無い。


 だからどいつもこいつも刹那的。

 今さえ良ければいいって奴らばっかりや。


 だから余計に10年で国は滅ぶんやね。


 アホやわ。


 そんなこんなやから。

 ゴール王国の人間、表立っては言わんけど。


 カンサイ地区の人間……カンサイ人は一段低く見とる。


 それに気づいたのは、寺子屋2年生のとき。


 ウチが友達と思ってた子が、ある日からウチを避けるようになった。


 そのときのウチは、それが何でなのか分からんかったから、ある日その子を問い詰めたんや。


 すると。


「……カンサイ人は悪い事ばかりしてるんでしょ? もう私、テスカちゃんと友達で居たくない」


 ……言われた時。

 ポカンとしてしまったことを覚えとる。


 何でなん?

 意味分からへん、って。


 ウチは自分が元カンサイ人なのは、一応知っとったから。

 前にそれをなりゆきでポロっと言うてしもたんやけど。


 そのせいで、こうなったんや。


 ……何で?

 ウチがカンサイ人なの、そんなに悪いことなん?


 だんだん泣けてきて、家に帰ったら、とうとう限界が来た。


 帰って、寺子屋の道具が入った手提げかばんを下ろしたら、ワンワン泣いた。


 オトンとオカン、仕事中やったけど、オカンの方が仕事を中断して来てくれた。


「テスカ、どないしたん?」


 ウチは言った。


「オカン、どうしてウチはカンサイ人なん? カンサイ人は何で嫌われるん?」


 言った瞬間、オカンの顔がすごく曇ったのを覚えとる。

 オカンはウチを抱きしめて、こう言ったんや。


「ごめんな、テスカ。テスカは何も悪ない。悪いのは、他のカンサイ人なんや」


 オカンは言ったわ。

 ウチを抱きしめながら。


 話はこうやった。


 曰く、カンサイ人はカンサイ地区が貧しいので、よくゴール王国に密入国をして、勝手にゴール王国で生活している事が多い。

 そして、そういうカンサイ人は、生活に行き詰まると犯罪に走り、真っ当に暮らしているゴール王国民の皆さんを傷つける。

 その犯罪発生率、ゴール王国民の10倍以上。だからゴール王国民は、口には出さんけど、カンサイ人は全て悪党だと思ってる、って。


 そんなん……そんなんウチと関係ないやん!


 オトンとオカンかて、お飲み焼き屋繁盛させて、ちゃんと仕事してるのに!

 第一帰化してるやん!


 仲間ちゃうの!?


 そしたら、オカンは言うたわ。


「……テスカ。ゴール王国の人を恨んだらいけへんよ。オトンとオカンを『陛下に忠誠を誓うのであれば、皆、我が国の国民……いや臣民だ』って言ってくださって、受け入れてくれはったのも、ゴール王国の人なんやからね」


 だからテスカ、真っ当に生きるんや。

 真っ当に生き続ければ、いつか必ず認めて貰える日がやってくるから。

 その日まで頑張っていこうな……。


 オカンは、そんなことを真面目な顔で言うたんや。


 ……多分、オカンの言うたことは正しいんやろう。

 でも、ウチは……納得はできんかった。


 まぁ、わざと暴れて威嚇するようなことはせんかったけど……

 その日から、ゴール王国民は信じひん。

 そう思うようになっていった。


 ……向こうがウチを信じひんねん。

 何でウチが向こうを信じてやらんとならんねん。


 売り言葉に買い言葉ってやつや。


 ……ちょっと違うか。


 まあ、ええ。



 スタートの街で、帰化人として生活しているカンサイ人はウチの家だけやったからね。

 その日から、ウチはボッチになった。


 当然や。

 誰にも心を開かないって決めたんやもん。


 勉強は真面目にやったよ。

 成績は嘘を吐かんもんな。


 楽しそうに遊んどるゴール王国民なんかより、いい成績で寺子屋を出て、成り上がったる……!

 それだけを胸に、ガリガリやったわ。


 女の子らしいオシャレなんてせんかった。

 ただひたすら、勉強や。


 髪の毛は手入れが面倒やから、男の子みたいに、短く切った。

 丸坊主やないけどな。

 そのまま男装したら、通用するレベルの短さや。


 で、寺子屋7年生になったとき。

 寺子屋内の試験成績上位10名が、貼り出されるようになったんやけど。


 ウチの名前が、2位のところにあったんや。


 嬉しかった。


 嬉しかったけど……。


 1位のヤツは、当然やけどゴール王国民。


 しかも、いけすかん奴やった。


 皆に慕われとる奴や。


 名前は、ヒカリ・ヤマモト。

 10年以上前に、このスタートの街を襲った未曽有の危機を打ち払った英雄である、クミ・ヤマモトの娘。

 国王陛下とも謁見した経験がある、お金持ちの女英雄の娘。

 良いところのお嬢さんや。


 生まれだけでもすごいのに。


 成績は1位。


 運動も得意で。


 見た目はメチャメチャ美人。

 目は涼し気。クール系美人や。

 髪はセミロングの黒。スタイルも最高や。

 胸は大きいし、腰はキュッと細くて、お尻の肉付きも申し分ない。


 ジッサイ、毎日のように男どもに告白されとる。

 何故か全部、断っとるらしいけど。


 で、女子連中は「ヒカリ様、ヒカリ様」と。

 男子連中は「ヒカリさん、ヒカリさん」言うて憧れとる。


 ウチとは正反対のヤツやわ。

 年齢は同じなのにな。


 ウチなんて、髪は短いし、目は三白眼。

 デブではあらへんけど、貧乳やし。


 背は低いし……。


 女としては、完全に勝負にならへん有様。


 でも、妬んでも始まらんし、いつか勉強で追い抜いたると、部屋に「打倒ヤマモト!」って書いて貼り紙して、余計に頑張ることにした。 


 けど、頑張っても頑張っても、ウチの2位は変わらへんかった。

 悔しかったわ。


 ウチ、実は世界で一番頭が良いんじゃないやろか、なんて自惚れとったからな。


 試験の結果が貼り出されるようになるまでは。

 その鼻っ柱を、見事にへし折られたんやね。


 試験のたびに、惨めになったわ。


 試験結果が貼り出されるようになるまでは、自分の力を誇示できる、ウチの活躍の場やったのに……。


 そうして、1年間1度も勝つことができへんで。

 1年過ぎたとき、事件が起きたんや……。




「無い! 給食費が無い!!」


 その日、寺子屋のクラスの男子が、いきなり騒ぎ出したんや。

 給食費は、寺子屋の勉強が終わった後、先生が集めることになっとった。


 ウチは自分の分の給食費を出そうと、手提げかばんを探っとったら、突然や。


 それだけやったら、そいつが忘れたんや、で済んだんやけど。

 そいつ、トチ狂いよって。


 こんな事を、言いよった。


「誰かが盗んだ!」


 盗んだ。


 その言葉が出た瞬間やね。


 一斉に、ウチに疑いの目が飛んできたわ。


 ……理由はひとつやね。


 ウチが、元カンサイ人の帰化人やからや。


 そういう目で見られるの、ウチは慣れとるから、慌てんかったよ。


「……ウチやない」


 それだけ、言うた。


 信じて貰えへんかったけどな。


「……本当かよ?」


「オマエんち、どうせカツカツなんだろ?」


「正直に言っとけって。なぁ?」


 ……ハイハイ。

 予想はしとるわ。そういう反応は。


 ムカムカしたから、言うたったわ。


「だったらここで裸になったろか? それでも出てこーへんかったら責任とってもらうで?」


 ……これぐらい言わんと、こいつら、黙りよれへんからな。

 しゃあないわ。


「ムキになるところが怪しい」


「すでに金は安全なところに隠しているのかも……」


 そしたら。


 周りの奴ら、そんな難癖をつけてきよる。

 ……どうあっても、ウチを泥棒にしたいわけやね。


 もうええわ。


 ……オカン、ウチ、ちょっと暴れることにする。


 そう、思ったときやった。


 ガタンッ!


 席の一つが激しく鳴って、ひとりの女子が立ち上がったんや。


 ……皆、注目した。


 だって、それは……


「証拠も無いのに犯人扱い。酷過ぎるよね。皆」


 この寺子屋の女王様。

 ヒカリ様やったんや。


 ヒカリ様は厳しい目で皆を見据えた。

 皆は、息を呑んだ。


 ヒカリ様はウチの事を庇ってくれた。

 たった1人で。


 ……そりゃ、ヒカリ様には元々権力があったかもしれんけど。

 何も臆することなく、1人でウチが犯人と言う皆を威圧してくれたんや。


 いや、それだけやない。


 ウチを、救ってくれたんや……!


 この日から、ヒカリ様は、打倒する敵ではなく、敬愛するヒカリ様になったんや。

 ウチの中で……。

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