孝文とサクラコのプチ旅行(車検)④
車を走らせる事数時間、高速道路は若干の渋滞をしていたものの、点検の予約時間より少し早く車屋に到着した。もとは
俺は早速点検の手続きをして、十九時以降に車を受け取れる事を伝えられ、サクラコと共に車屋を後にした。
「これから、ほなみちゃんの所に行くの?」
「そうだぞー。今が十二時半だから、ここから電車に乗って一時前には着くだろうな」
「じゃあはやく行こうっ!」
「あっ、おい待てサクラコっ!お前駅の場所知らないだろうが!」
ワクワクが止まらないといった様子のサクラコは、駅の場所も知らないにも関わらず駆け出してしまった。俺はそれを追うような形で歩みを早めるが、幸いサクラコが駆け出している方向に駅があるので当分は止める必要は無いだろう。
そんなこんなでワクワクが止まらないサクラコと共に駅に着いたわけだが、サクラコが足を止めてしまった。
今、俺達の目の前にあるのは自動改札と券売機。駅の規模としてはそこまで大きくはないから日曜日と言えど人も少ない方だろう。
「どうした?」
「た、孝文……大変だっ! わたし、切符の買い方知らないっ!」
「……なるほどね」
そういえばそうだった。サクラコは、生まれ育ったあの街から出た事が無かったんだった。そりゃあ電車に乗るのは初めてで、切符を買うのも当然初めてだろう。あれ、そう言えば……
「サクラコ、俺が小学生の頃ってさ、授業で切符の買い方を教わったんだよ。遠足みたいな感じで実際に駅まで行って。そういうのって無かったのか?」
「無かったよ! そもそも近くに駅が無いからね!」
そういやそうだった。近所に電車の走っている駅なんて無いし、バスすら無いんだった。とは言え、鷺ノ宮先生よ。一般教養くらい教えてやれよ。世間知らずの子供が爆誕するぞ。
「じゃあ孝文、切符の買い方教えて!」
「おぅ、当然だ。ひとまず券売機に……おい待て」
俺が券売機へと向かおうとすると、サクラコは手提げ袋から財布を取り出し、札を俺に見せてくる。……多くね?
「……サクラコ、お前いくら持ってきたんだよ」
「えぇと……一応電車に乗る事とかは事前に想定してたから、十万円くらい?」
「多いわっ! 子どもが持ってていい金額じゃねぇよっ!」
きっと両親が毎月振り込んでいるであろう貯金を下ろしてきたのだろう。ってか、電車に乗る事を想定してたのになんでそんなに持ってきてんだよ。落としたらどうするんだか。
「サクラコ、子どもがその額を持ってるのは危ないから俺が預かっておくぞ」
「えー、そう言っておいて後で返さないとかないよねぇ?」
「アホか、俺が子どもの金を取る卑しい大人な訳がないだろうが。家に帰ったら返すよ」
「はぁい、じゃあ預かっといてー」
俺はサクラコから金を受け取り、丁重に鞄の中にしまった。
さて、気を取り直して券売機で切符の買い方を教えよう。もちろん支払いは俺の金を使って。
「いいかサクラコ、まずはこの切符を買う券売機の上にある地図を見るんだ。そこで今いる駅を確認して、それから向かう先の駅を確認する。ほら、駅名の下に数字が書かれてるだろ? それがその駅まで行くために必要な金額ってわけだ」
「へー、結構簡単なんだね! それに安い!」
安いって……そりゃ切符買うために十万も持ってきてたら安く感じるわな。
「ひとまず、俺達が今いる駅がここで、目的の駅はここ。料金は四百六十円だな」
俺は地図を指さしながら説明する。サクラコはうんうんと頷きながら理解に努めている。
「それじゃ、次は券売機。さっき目的地までは四百六十円って事が分かったから、券売機にお金を入れて後は何枚買うかとかを設定して買う、ってな感じだな。これに関しては実際にやりながらのほうが覚えやすいだろうからやってみよう」
「はーいっ!」
サクラコは人のいない券売機に駆け寄り、俺も後に続く。
ボタンが沢山あってワナワナしているサクラコを面白がりながらもしっかりと説明をして、切符を買わせることに成功した。そういえば子どもは半額だったね。
「買えたよー! 孝文、見て見てっ!」
買えた切符をこれ見よがしに俺に見せつけるサクラコは、控えめに言っても微笑ましい限りだった。そうかぁ、こうやって子どもは成長していくのかぁ。とか感慨深く思ったりして。
「偉いぞ。また車を引き取りに来る時に切符買うから、買い方忘れないようにしような。さぁ、電車に乗るぞ」
「あいっ!」
元気に返事をしたサクラコと共に、駅構内に向けて俺達は歩き出した。
さぁ、もうすぐでほなみさんに会えるぞ。最後に会ったのは引っ越す直前だから七月末か。毎日電話で話してるとはいえ約半年ぶりの再開、楽しみで仕方がないよ。
●あとがき
サクラコは知識があっても経験が無い子どもですからね。今回もそれが影響して少し世間知らずっぷりが露見してしまいましたね。
クロエ「いいじゃないの、あの子っぽくて。知識がある分、これから沢山経験していってきっと立派な大人になるわよ」
鷺ノ宮「そうであるぞ。様々な経験を糧に、彼女は強くなっていく。我に挑む時も近いかもしれんな、はっはっはーっ!」
挑むって何だよ。煩いぞ切符の買い方さえ生徒に教えなかった反面教師。
鷺ノ宮「は、反面教師じゃないもん! ちゃんと教師してるもんっ!」
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