孝文とサクラコのプチ旅行(車検)②
車に乗った俺とサクラコは、最寄りの
ETCを付けているので徐行しながらゲートが開くのを待ち料金所を抜けると、サクラコが目を爛々と光らせながら言ってきた。
「すごいね孝文! 競馬みたい!」
「競馬? ……あぁ、そういえばこの前テレビで観てたな」
サクラコは以前、テレビに映る競馬をそれはもう楽しそうに観ていた。「この子が勝つよ!」とか「うーん、この子は元気なさそう」とかパドックでの馬の様子から着順は予想していなかったものの、三連複を大当てしてたのには驚いた。馬券を買っておけばよかったと少し後悔したよ。
「ゲート開いて、スタートです。孝文騎手の乗る車号、順調な走り出しで最初の直線を駆け抜けます!」
「実況するなよ。……ほら、第一コーナーだぞ」
本線へと合流するための緩いコーナーに差し掛かった。すると前を走る赤い車に追いついてしまった。
「体勢変わって、赤い車、孝文騎手の車と続きます!」
「はははっ、サクラコは実況上手いなぁ。あっ、抜かされた」
本線へと合流すると、俺達のすぐ後ろを走っていた黒い車が追い越し車線へと車線変更して物凄いスピードで追い越していった。
「黒い車、速いっ! 赤い車と孝文騎手の車は追いつけません! これが、大逃げだぁっ!」
「最近の競馬で大逃げする馬いなかっただろうが。どこからその情報仕入れてきたんだよ」
「孝文のパソコンで調べた!」
「いつの間に……あぁ、だから動画サイトのオススメで競馬の動画が多かったのか」
最近パソコンで動画サイトを開くと、逃げが得意な馬の動画が多くオススメされていたのを思い出した。どうやらサクラコは、逃げる馬が好きなのかもしれない。
にしても、サクラコにパソコンの使い方なんて教えてないのにな……いつの間に覚えたのだろうか。
ビュンビュンと追い越し車線を走る車から追い抜かれながらそんな事を考える。
「続々と追い抜いていきます! いやぁ、解説の孝文さん、逃げが多いレースとなってますね!」
「騎手から解説に変わっちゃったよ。そもそも逃げはレース開始時に後続を引き離す戦法だぞ? 先行とか差しとかの戦法も思い出してやれよ」
「逃げが好きなの!」
こんな調子で、
日曜日という事もあり高速道路は少し混み気味なSAに到着した俺達は、施設付近はどこも満車だったので少し遠めの駐車スペースに車を停めた。
俺とサクラコは車から出ると同時に伸びをする。
俺は運転で腰が痛くなっていたから伸びをするが、サクラコは別にしなくてもいいんじゃないか?とか思っていると、近くに停めてある車に乗り込もうとするニ十歳前後の女性数人が俺達を見てクスクス笑っていた。
俺は何故笑われていたのか分からなかったが、女性達が話している会話が微かにだが聞こえてきた。
「見て見てっ! あの親子同じ格好で伸びしてるよー!」
「えっ、待ってめっちゃ可愛いんですけど!」
「写真撮ってもいいかなっ⁉」
「尊っ…………」
っとまぁこんな具合に俺達を見て姦しいまでに騒ぎ立てていたのだった。
そんな状況で恥ずかしくないわけが無く。俺はサクラコを抱きかかえるとそそくさと施設の方へと歩いた。
「なに孝文ぃ、おしっこ漏れそうなの〜?」
「コラ、おしっことか言うんじゃない。ってか漏れそうでも無いわ」
サクラコは体重がとても軽いので、抱えて歩く程度であれば楽勝だ。
このSAは羽生とか那須高原とかと比べると規模は小さいが、それなりに施設も充実していてドッグランなんかもあったりする。アリスはまだ子犬だから、もう少し大きくなったら連れてくるのも良いかもしれない。庭が広いからそんな必要は無いかもしれないが。
「ねぇ孝文。なんかワンちゃん多いね」
「そうだなぁ。ほらあそこ、ドッグランがあるからだな」
サクラコの言う通り、チラホラと犬を見かける。小型犬から大型犬まで、多種多様だ。もちろんそれらの犬全てがドッグランを目的に連れて来られた訳では無いだろう。
「へぇ、そんなのがあるんだぁ。ワンちゃん達が走るの?」
「まぁ、そうだな。我が家みたいに広い庭なんて無い家庭が一般的だから、散歩以外で思う存分走らせてあげるためにドッグランはあるんだよ。……って、サクラコ。お前英語分かるのか」
サクラコはドッグランという英語の意味をまるで理解しているかのように言ったので、俺は驚いた。最近の小学生は、授業で英語をやるものなんだろうか。
「あ、あははー、授業で覚えたからねっ!」
「そうか、最近の小学生は英語もやってて凄いなぁ」
「ほ、ほら早く中入ろう!」
サクラコは何故か建物に入るように言ってきたが、よく分からんなぁ。遠回しに勉強できて偉いって褒めたつもりだったんだが……まぁ、いいか。
俺はサクラコに促されるまま土産屋や飲食店が入っている施設へ向けて歩き出した。
●あとがき
クロエ「どうやらサクラコは頭が良い事をタカフミに隠してるらしいわね」
烏骨隊長「ふむ、何故隠す必要があるのか分からんな。そもそも学校の授業内容の時点でバレているだろうに」
クロエ「まぁ、誰にでも隠し事の一つや二つあるものよ」
鷺ノ宮「フハハハーっ! 我も秘密ならあるぞっ! 例えば、眼帯の下の左目には最強魔王邪竜が封印されていて――」
クロエ「煩いわよ厨二病。聞いてないし何よ最強魔王邪竜って。属性てんこ盛りすぎてクドいわよ」
鷺ノ宮「そ、そんな……夜なべして考えたのに……」
●作者の独り言
そういえば、気付けばこの小説を書き出してから一年が経っていました。飽き性の私が一年もの長い間書けるなんて……頑張ったじゃん、私。
最初の脱サラ編は私が経験した事を孝文くんを通して物語にしただけでしたが、そこから空想を盛りにモリモリにして今では結構読み応えのある文量になっていて驚いています。
これも、応援してくれている皆様のおかげで書き続ける事ができました。本当にありがとうございます。
今年と来年は就活で執筆をできる纏まった時間がなかなか取れませんが、通学中の電車等でチマチマ書いていきますので、よければ引き続き応援して頂けると助かります。
また、別で執筆中のハイファンタジー小説『植物使いの百鬼夜行』もその内投稿できればな、と思っていますので楽しみにしていてください!
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