皆ではしゃごうBBQ 第四話

 さぁピザを焼くぞ!

 俺はそそくさとバーベキューをしていた焚き火台を崩し、新しく石ブロックと鉄板を組み合わせて簡易のピザ窯を作った。結構簡単に作れるので調べてやってみるといいよ。


「へぇ、こうやって作るんだな」


 清水さんが感心しながらまじまじと見てくる。


「簡単に作れるもんですよ。自由に治具作ってるみたいで楽しいですよ。清水さん宅の庭でも出来るんじゃないですかね。煙凄いですけど」

「はははっ、住宅街でできるわけがないだろ」


 デスヨネー。住宅街でやろうものなら苦情の嵐だろうな。

 さて、雑談はここまでにして準備の続きをやろう。

 まずはピザ窯の底面部に設けていた焚き火に火を付け、薪をくべながら安定するまで見守る。


「よし、そろそろいいかな」


 火が安定した事を確認すると次は食材の準備だ。生地は前もって作って寝かせていたので具材を乗せていくだけだが、こういった作業は皆でやったほうが楽しいだろうな。


「生地持ってきたんで、皆で好きな具材乗せましょうか。ほら、子供達もやっていいよ」


 俺は持ってきた具材を並べ、生地を指さしながら子供達に言う。


「うぉぉ、なんか楽しそう!」

「お母さん、やってくる!」


 先程まで寝ていたので元気いっぱいな須藤さんと清水さんのお子さん達ははしゃぎながら具材を選んでは乗せていく。


「サクラコはいいのか?」


 俺は横にいたただそれを眺めるだけのサクラコに言う。少し難しい表情をしているサクラコを見るからに、どうやらまだお子さん達とは仲良くなれていないようだった。大人達とはもう仲良くなってたのになぁ。同年代の子供との距離感が分からないのかもしれないな。


「うーん……なんかね、よく分からないんだよね」


 分からない、か……俺も同年代の友人よりも年上の友人のほうが多いが、そこまで渋い顔をするほど分からないなんて事は経験したことが無いな。


「まぁなんだ……俺や他の大人達と話すようにすればいいんじゃないかな。ひとまず、なんでもいいから行ってこい。俺も横にいてやるからよ」

「えっ、ちょっと孝文ぃっ!」


 サクラコの背中をぐいぐいと具材を選んでいる子供達の傍まで押していく。


「ほらお前ら―。ちゃんと野菜も選ぶんだぞー」

「えぇー、肉でいいじゃん!」

「お野菜、ちょっと苦手……」


 どうやら子供達は野菜が苦手なようだな。美味いんだけどなぁ。


「サクラコはしっかり食べれるんだぞー?お前らより年下なのに偉いもんだ」

「えー、サクラコちゃん野菜食べれるのー!?」

「う、うん。……お野菜、美味しいよ?」

「すごーい!」


 こんな調子でサクラコに話を振ってやると、子供達も食いついてどんどんと話していくようになっていった。


「お前、子供の相手上手いのな」


 子供の様子を見に来た清水さんが言う。


「あぁ、清水さん。いやぁ、上手いとかそんなんじゃないですよ。ただ会話を繋げてるだけですって」


 子供達を見てみると、もうじゃれあいながら一緒に具材を選んでいる。楽しそうだな。

 サクラコももう無邪気に笑っているし、心配は無さそうだな。


「よし、じゃあ焼いてくぞー。これは危ないから俺がやるからな」


 子供達がトッピングしたピザを、窯に入れて熱する。火加減が難しいから時折様子を見ながら焼いていくか。


 そこから大人達も交えて具材をトッピングしつつ、沢山のピザを用意しそれを焼いていく作業に移行した。



 ピザを焼きだしてから1時間、まだ用意したピザの全てを焼くことはできていないが、焼きあがった分から皆に食べだしてもらっている。

 常にピザ窯の傍にいて焼き加減と火加減を確認しているので、もう汗だくだ。

 額から滴る汗をぬぐっていると、ふと後方から涼しいそよ風が吹いてきたので顔を向けてみると、飯田さんが団扇で扇いでくれていた。


「飯田さん、ありがとうございます」

「頑張りすぎはいけないよぉ。ちょっと休憩してもいいんじゃないかしら?」


 確かに、ずっと焼きっぱなしだったからな。そろそろ水分補給をしないと汗の量からして脱水症状で倒れてしまうだろう。


「そうですね。これが焼き終わったら休憩にしますよ」


 そう言うと飯田さんは微笑み、団扇で扇ぎながら見守ってくれていた。




 焼き終わると俺は飯田さんに礼を言い、汗でびしょびしょな服を着替えるために室内に来ていた。

 汗を軽く拭き、着替え終わると念のため保護した子犬の様子を見に行くとまだゲージの中で寝ていた。やはり子犬はよく寝るな。そのまま騒がずに大人しくしておいてくれよ?


 その後庭に戻ると相変わらず盛り上がっていて、酒でも飲んでいるのかと心配になってしまうほどだった。

 今回酒は一切用意していない。全員今日中に帰るし、車やバイクで来ているので酒は飲まないようにと前もって忠告していたのだ。


「おっ、喜多ぁっ!聞いてくれよこの前部長の野郎がよぉ!」

「はいはい、聞きますよー。また部長がやらかしたんすか」


 まったく、俺は会社を辞めてる身だというのに相も変わらず愚痴を聞かされるんだな。まぁいいか。俺が辞めてからどうなったか気になっていた部分もあるのでこの際に聞いてしまおう。


 そんな具合で愚痴を聞いたりピザをまた焼いたり、子供達と遊んだりクロエや烏骨鶏達の様子を見たいなどで慌ただしくしていると時間というものはすぐに過ぎるもので。

 気が付けば夜も更け21時過ぎ。そろそろ皆帰る準備を始めだした。

 清水さんと須藤さんのお子さん達は遊び疲れたのかもう寝ている。夕方も寝ていたのに、子供は遊んで寝てで忙しい限りだ。


 最初に帰ったのは松田さんと青央さんだった。帰り道に温泉があるらしく、そこに寄っていくそうだ。いいなぁ、温泉。俺も行きたい。

 その次はてんちょーと猫村さん、飯田さん。飯田さんと猫村さんは近いのでいいが、てんちょーはどうやらここまで歩いてきたらしい。正確な場所は知らないが、歩いて来れる距離だったのか。しっかり光り輝くヤカンは持ち帰ってもらったよ。

 そして次は清水さんファミリーと須藤さんファミリー。最後の最後に「仕事嫌だ―!ずっとここにいる!」と言っていたが知りません。管理職は苦労がいっぱいだね。頑張ってください。

 そして最後に残ったのが――


「サクラコ、君はいつまでここにいるつもりだ?」


 皆が帰って10分以上経っているが、いつまでも帰ろうとする気配のないサクラコ。何故か声を掛けても黙ったままだし、しまいには手を握ってくる始末。どうした急に。


「……ごめんね孝文。なんかね、帰りたくないの」


 絶世の美女に言われたい言葉№1を頂きました。

 でもな、帰りたくないのはわかるよ。楽しい時間って終わっちゃうと少し寂しさを感じるからな。某ネズミの国に行った帰り道とか同じ感情になりがちだ。

 とはいえ、まだ小学校低学年の子供を家に帰らせないわけにはいかないし……どうしたものか。そろそろ親が心配してしまうだろう。


「サクラコ、そろそろ帰らないと親が心配するぞ?家まで送ってやるから一緒に帰ろうな?」

「……でも、家帰っても独りだし」


 独り?親は帰ってきていないのか?人様の家庭環境に口を突っ込むわけにはいかないが、さてどうしたものか。


「親は、仕事か何かで出かけてるのか?」

「うん、ずっと他のところに行ってるの。ママもパパもどこか行ってるから、わたしはいっつも家では独りなんだ」


 出張か何か仕事の都合で家を空けるなんてのはどこの家庭でもあるものだろう。だけど、両親が常に家を空けるなんて――普通ではないだろうな。


「いつ帰ってくるとかは知ってるのか?」

「……うぅん、知らない」


 子供に関心が無い親なのかもしれないな。どうしたものか……


「……ひとまず、今日は泊っていくか?」

「いいの?」

「いいも何も、いくら田舎とはいえこの時間に帰らせるのも危ないだろうし……いいよ、泊ってけ」

「うんっ!ありがと孝文!」


 先程までの沈んだ表情とは打って変わって明るい表情になり、いつも通りのサクラコに戻った。

 今日だけでなんだか疲れたな。やたらと動いた、って事もあるけど、子犬を拾ったりサクラコの家庭事情だったりな問題もあったりで身体的にも、精神的にも疲れた。

 ……あぁそうだ。今日はサクラコが泊るからほなみさんとの電話はできないだろうな。後で連絡しておこう。

 そんな事を考えながら、室内に入っていくサクラコの後ろ姿を眺める孝文だった。



〇作者の独り言

あれからずっと孝文くんとほなみさんの『一日に一回電話をする』という約束は続いています。何話してるんでしょうね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る