高卒サラリーマンが脱サラして田舎でスローライフするだけの話

らいお

脱サラ編 第一話

 皆さんは小さいときに動物園や牧場などで動物と触れ合った事はありますか?

 自分で植物を育てた事はありますか?

 自分で工具を用いて物を作った事はありますか?

 このお話は、自分がやりたい事が出来なかった高卒サラリーマンが、仕事を辞めてそれを叶えるお話。



 私、喜多孝文きたたかふみは高卒サラリーマンである。

 高校は県内にあった工業高校。なぜ工業高校にしたかは私が受験した年に高校受験の体裁が変わり、面接が必須になったから。普通高校は志望動機でっちあげるの無理なんだよ。工業なら「モノ作りが好きなんです!」とか言えばいいし。

 こんな適当に工業高校に入る私だが、今となっては工業高校で良かったと思っている。

 電気科だったから電気工事士の資格取れたし。国家資格だよ?凄くない?

 今の仕事にはまっっったく役に立ってないんだけどね。

 でも、電気の知識は多少なりとも役に立ってはいる。


 私が勤めている会社は、自動車の部品を作っているメーカーだ。

 そこで私は新規開発品の試験評価を行っている。頭の使う業務だ。こんな事を頭もたいして良くない高卒にやらせていいのか、とは思うが結構面白かったりする。


 この企業に勤めてはや7年。25歳だ。仕事も覚えてバリバリ仕事をしている。

 今日も朝起きて、身支度をして250ccのバイクで会社へ向かう。会社に着いたら作業着に着替えて事務所へ向かう。PCを起動してメールチェックをする。朝礼が始まる。耐久試験の様子を見に行く。次の試験準備をする。同時に前やった試験結果を纏める。纏め終わるとさっき準備した試験を行う。また、次の試験の準備をする。前にやった試験の結果を纏める。これの繰り返し。

 たまに耐久試験器具とか治具を作ったり、試験結果を元に会議をしたりするけどね。

 ちなみに私は今、今日何回目かの試験準備を行っている。


 「おい喜多。耐久試験って今何回まで進んでる?」


 後ろから声を掛けられた。

 この人は私と同じチームで仕事をしている松田さんだ。

 同じ高卒の先輩で、私より一回り年上。外見は綺麗に剃ったスキンヘッドに胸元に金のネックレスが光る。パっと見ヤクザだ。


 「あぁ、松田さんですか。今10万回終わったあたりなんで、明日には11万回終わると思うので途中性能測定しときますよ。」

 「そうか。明日の昼にエアー止まるらしいからそれまでに耐久機止めとけよー。あと、タバコ行くぞ。」

 「うぃー。ここのネジ締めたら行くんで先行っといてください。」


 パっと見ヤクザな松田さん。第一印象は正直言って怖かった。この人の元で働くなんて無理だろ。なんて思っていたが、話してみるとしっかり仕事教えてくれるし優しい人だった。


 私は測定試験機に試験資料を取り付けネジを締めると休憩所へ向かった。

 自販機でコーヒーを買って、松田さんのもとへ向かう。


 「お疲れさん。今日の業務どんくらい終わってる?」

 「あー、だいたい7割くらいっすねー。定時までには終わると思いますよ。何もなければ。」


 2人して煙草に火をつける。

 私はラッキーストライクの6mg。松田さんは赤マル。

この先輩、私が来るまでタバコ吸わないで待ってたのか。可愛いかよ。顔ヤクザだけど。


 「そういや喜多。お前動物好きだったよな。」


 タバコを美味しそうに吸っている松田さんが言う。

 動物好きなんて言ったかな。いや好きだけど、言ったかなぁ。


 「好きですねー。動物全般好きですよ。爬虫類はちょっと苦手ですけど。」

 「これ見てくれよ。いいよなぁ、こんな生活。」


 松田さんが見せてきたスマホに、動画が映っている。

 内容は、田舎に土地を買ってヤギや鶏などを飼いながら、小さな畑で野菜なんか育てたりして悠々気ままに田舎暮らしをしているものだった。


 「おぉー、いいですねーこういう生活。楽しそうですね。」

 「だろー?俺も老後はこんな生活したいもんだな。」

 「へぇ、松田さんこんな生活に興味あったんですか。ちょっと意外ですn」


 唐突に私の右脇腹に鈍い痛みが走った。

 鈍痛が走ったほうを振り向くと、そこには私の右脇腹にめり込む腕があった。


 「よぅたーきー!仕事進んでっかぁー!?」


 この私を”たーきー”と呼ぶ人は同じ部署で別チームの係長をしている須藤さんだ。

 私にちょっかいを掛けてケラケラ笑うよくわからない人。明るい人だって事はわかるけどいつもケラケラしてるから何を考えているのか不明だ。


 「ちょっ、須藤さん痛いっすよ。」

 「なんだよたーきーノリ悪いじゃんかー!なぁ、マツ!?」

 「いや、喜多はいつもこんな感じじゃないですか。それよりいつも事務所なのに試験棟に何か用ですか?」

 「事務所雰囲気悪いからよー。設計のやつらピリピリしてるし品証の連中は暗いしあんな所に丸一日いれるわけねーよ!あとウチの部長のよくわからん話はもう聞き飽きた。」

 「アイツまたくだらねぇ話してたんですか。そりゃキツいですよね。」

 「マツめっちゃ暴言吐くじゃん!じゃ、試験棟回って事務所帰るわー。」

 「あいー。…じゃ、俺らもそろそろ休憩終わるか。」


 松田さんが言っていた動画は須藤さんの登場によって話が逸らされてしまった。

 休憩後は特に問題無く業務をこなし、私は定時で帰る事ができた。

 定時万歳。

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