第86話 決戦の日

「矢野君遅いね……

計画通りに、本当に上手くいくのかな……」


計画自体そうだけど、

本当に上手くいってるのか分からない。


もし咲耶さんが薬を飲まなかったら?


矢野君の計画に気付いてしまったら?


それに子供はどうしてるんだろう?

一緒に居るのかな?

この計画に巻き込まれたりしてないよね?


本当に大丈夫かな……?


窓の外を覗きながら僕はリビングをウロウロとしていた。


「まあ、気になるのは分かるけど、

座ったらどうだ?」


佐々木君に言われ、ちょこんとソファーに腰かけた。


「そいえば、前にもこうやって

矢野君が咲耶さんの所から帰って来るのを待った事あったよね。


あの時は初めて咲耶さんに会った時だったけど、

あれには参ったよね。

まさか矢野君が帰って来てから、

咲耶さんと付き合う事になったって聞くとは思わなかったけど……


今回は違うよね?」


僕が心配そうにそう言うと、佐々木君がポンと僕の頭を叩いて、


「そんな事あるわけないだろ。

今回は目的もハッキリしている!」


と断言してくれた。


「でも……矢野君は優しい人だから……

もし…… もし、咲耶さんの答えに絆されたりしたら……」


僕はそ言うと、

佐々木君は真剣な顔をして、


「そうだな……

あいつ、そんな優柔不断なところあるからなぁ〜」


と言って僕を見た後、


「お前に心配顔って面白いな」


そう言ってブハッと笑った。


僕が両手を挙げてムキーっとしていると、

ニヤッと笑って、


「そんな訳ないだろ。

心配するな。


あいつはこうだと言ったらそれを貫く男だ。


お前の事を愛してると言ったら、

自分の命を捨ててもお前を守る奴さ……


現に今だって、自分が前に進むためって言ってるけど、

多分、これは完全にお前の為だろうな」


と付け足した。


「え? 僕のため?」


「そりゃそうだろ?


このままではお前も悶々としたままで

前に進めないだろ。


光にはそんなのも分かってるからさ」


「ハ〜 αの人たちって凄いよね」


「なんでそこにαが出てくるんだ?」


「え〜 だってαって自分の事だけでも大変なのに

その他のことも簡単にやって退けちゃうよね」


「それ、α関係無くないか?


愛する人に為だったら自分の力以上のことやるだろ?

ほら、火事場の馬鹿力って言うじゃないか。


光が記憶を取り戻す治療をするのも、

自分の為だって言ってるけど、

大まか、お前の事を思ってだろうな。


本当はあいつも怖いと思ってると思うぞ?」


「そうなの? 矢野君でも怖いって思うことあるの?」


「あいつさ、結構小心者なんだよ。

見かけによらず繊細だしな」


「じゃあ、僕がやめてって言ってるのに

どうしてそれを無視してそこまで?」


「まあ、きっとそれは、

アイツなりのお前への愛の証なんだろうな……


お前だってまだ完全にアイツのこと信用してないだろ?」


そう言われると僕も何も言えない。


確かに僕の中にある気持ちは、

沖縄で愛を育んでいた頃と違う。


あの時はお互いが思いあってるって感じた。

何があっても自分たちは永遠に愛し合うんだという思いさえしていた。


でも今は違う。


ふとした拍子に、また記憶が混乱して

僕の事を忘れてしまうんじゃ無いだろうかと思える。


そしてまた振出しに戻って、


“お前、誰?”


と言われてしまいそうな気がする。


それがとても怖い。


それが矢野君を信用して無い証拠だと言われると、

そうなのかもしれない。


矢野君の今の気持ちはすごく嬉しい。


でも今の足踏み状態では、

そう言った不安はきっといつまでも僕に付き纏う。


じゃあ、もし矢野君が記憶の治療を行って

全てを思い出したらその思いは無くなるの?


と聞かれると、

それはその時になってみないと分からない……


でも本当の部分は、

一気に記憶を取り戻す矢野君の心が心配だ。


あれだけ咲耶さんの事で傷付いて

人生を終えてしまおうと思った彼だ。


本当に一気にその記憶を取り戻すのは正しい事なのだろうか?


今となってはどれが正しい選択なのかもう分からない。


僕の気持ちとしては全てが正しい方に動くのを祈る事だけだった。


「お前、腹空かないか?」


佐々木君の声に時間を確認すると、

もう夕食の時間を優に回っていた。


言われて初めてお腹空いてた事に気付く。


「何かデリバリーでも取る?


矢野君が帰ってきた時の為に家を空けたく無いからさ」


僕がそい言うと、


「そうだな、

じゃあウーバーといくか!」


そう言って佐々木君がアプリを開いた。


「へー 君もこう言うの使うんだね」


「お前、俺の事、どんな奴だと思ってるんだ?」


そう言って佐々木君が冷ややかな目で僕を見た。


「え? ブルジョワで〜

家にはお手伝いさんがいて〜

専属のシェフもいて〜

ハンバーガーも食べた事無いブルジャワ人?」


僕がそう言うと、

頭をパーンとはたかれた。


「お前な、どこの御坊ちゃまの話をしているんだ?!


今どきファーストフード食べないなんて、

どこの健康マニアだ?!


俺はハンバーガーも食べれば、

カップラーメンも食べるぞ?!


パンのみみだって食べるし、

キャベツのスープだってヘッチャラだ!


どうだ! 参ったか!」


とドヤ顔で告白された。


僕はクスッと笑うと、

床に頭を突いて


「どうも、お見それ致しました〜」


とおちゃらけた。


「まあ冗談はここまでにして、

何か食いたい物あるのか?」


佐々木君に言われ、携帯のアプリを覗き込んだ。


「うーん、これってっ、佐々木君の奢り?」


とぺろっと舌を出すと、


「たわけ! 割り勘だ!


お前が俺のものになってくれるって言うんだったら……

まぁ~考えないでも無いんだがな」


と冗談のようにして言っていたけど、

結局は奢ってくれた。


色々と迷ったけど、

庶民な僕には、

マック以外には何も思いつかなかった。


「僕はハンバーガーしか思いつかないけど、

佐々木君の好きなものでいいよ?」


僕がそう言うと、


「じゃあ……五つ星のステーキ店から~」


と言い出したので、慌てて、


「な…… 何そん所からデリバリ―取ろうとしてるの?!

気でも違った?!」


「バ~カ! 五つ星は出来た手を食べてこそうまいんだ。

デリバリーしてる間に品質落ちるだろ!


だれもデリバリーなんて使わないよ。


ほら、お前の良い所言えよ」


と来たので、結局はハンバーガーになってしまった。


「凄いね。

ちゃんとデリバリーがどこにいるか分かるんだね!


後3分で到着だって!」


アプリのマップを見続けた僕は、

カウントダウンしていた。


「あっ! 家の前だよ!」


そう言ったの同時に、家のベルが鳴った。


「来た来た~!」


そう言ってドアに出ると、

マックの紙袋を下げたデリバリーの人の後ろに、

子供を抱えた矢野君が一人で立っていた。



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