第78話 矢野君のひいひいお祖父ちゃんの絵画

殺風景な矢野君の部屋に、

一風変わった雰囲気を持つあの絵は、

あの部屋の中でひときわ目立っていた。


絵心の無い僕に取って、

いい絵だとか、悪い絵だとかは分からないけど、

矢野君の部屋のあった絵は、

綺麗な色とりどりのお花畑の中で、

手前でニコリとほほ笑む女の子が印象的で、

僕は直ぐに彼女の虜になってしまった。


でも佐々木君が、あまりにも真剣な顔をして、


“あの絵は曰く付きなんだぞ”


何て言うもんだから、僕は少し怖気ついてしまった。


「ねえ、もしかしてあの絵って、

幽霊なんかが出たりなんかしちゃう?


ねえ、そうなの?


矢野君のひいひいお祖父ちゃん?

それともあの女の子が夜中に絵の中から出てくるとか?!」


僕がビクビクしながら尋ねると、


「バーカ! やっぱり陽向は陽向だな」


そう言って佐々木君は急にお腹を抱えて笑い出した。


僕がぷくっりとむくれてそんな佐々木君を睨むと、

佐々木君は僕の背中をバンバン叩きながら、


「心配するな! お前の思ってるような曰くじゃないから!

それよりもさ、あの女の子、誰かと被らないか?」


そう尋ねた。


「え? 女の子?

一番手前で笑っている、あの花冠を被った?」


そう尋ねると、佐々木君は僕に向かって微笑んだ。


「もしかして……

矢野君のひいひいお祖父ちゃんが描いたって事は……


あれが一花叔母さん?」


そう言うと、矢野君は僕を見て意味深な顔をすると、


「そうなんじゃないかって言われてる」


と言った。


僕は矢野君の言った意味が分からなくて、


「そうなんじゃないかって……


矢野君のひいひいお祖父ちゃんからは、

あの絵の事は何も伝わってないの?」


と尋ねてみた。


すると佐々木君は更に意味深な顔をして、


「勿論、耳にタコが出来るくらい聞いてるさ」


と答えた。


「じゃあ、何で……」


頭がこんがらがったようにして佐々木君を見ると、


「実はな、あの絵はまだ一花叔母さんが

産まれるずっと前に描かれた物なんだ」


と、過去を振り返ったようにして答えた。


「え? 産まれる前……?と言う事は?」


「あの絵は一花叔母さんが生まれる前の絵だから、

一花叔母さんをモチーフに描いた絵じゃないんだ……」


「あ~ だから、“そうなんじゃないか?”、なんだね?

じゃあ、なんであれが一花叔母さんだと皆は思うの?」


「実はな、光の高祖父な、

あの風景を夢に見たみたいなんだ」


「夢……に?」


「ああ、高祖父な、夢で見たとき、

それが自分の未来の家族だって直ぐに分かったみたいだ。

だからそれを描いて、

美術展に出したみたいだぞ?」


「美術展に? 絵心のある人だったんだね……」


「まあ、彼の父親が美術監督なんかやってたからな、

絵は頻繁に絵画展なんかに出してたみたいだぞ?


その絵は賞こそ取らなかったものの、

何とな、その絵、誰の目に留まったと思うか?」


「え? もしかして矢野君のひいひいお祖母ちゃん?」


そう言うと、矢野君は僕を見てニヤッと笑うと、


「おしぃ~!」


と叫んだ。


「え? 違うの? 誰、誰?」


「それがな、光の高祖母の母親の目に留まったんだ。


それがどういう意味か分かるか?」


「え? ちょっと待って……

それって……」


「お前も知ってると思うけど、

光の高祖父母な、

20歳の歳の差があるんだよ」


「そうみたいだね。

何かの記録で見たよ……」


「それが何を意味しているか分かるか?」


僕は少し考えてみた。


“20歳の歳の差……


と言う事は、きっと彼の高祖父は高祖母の両親と同じくらいの歳……”


「もしかして、光君の高祖父って……」


「ああ、自分の妻の両親というか、父親と幼馴染だったんだ!」


「きょえ~! 自分の息子が自分の幼馴染と結婚?!

よく彼の両親がその結婚許したね?!」


「それがさ、その絵、光の高祖母の

母親の目に留まったって言ったじゃないか?


その時で母親は中学生……

で、高祖父は高校生。


光の高祖母の父親は高祖父の幼馴染で一緒に育ったらしいけど、

光の高祖母の母親は、

光の高祖父にまだ出会ってさえもいなかったって話さ。


だから…… 光の高祖母なんて、まだ生まれてもいなかったんだ」


それを聞いたとき、

目には見えない強い繋がりを感じた。


「凄いめぐりあわせだね……」


「だろ? それもさ、その絵、

光の高祖母の母親がかなり気に入って、

その絵が欲しいってかなり駄々をこねた絵でもあるらしいぞ?」


「来た、来た、キタ~!

凄いじゃん! なんだか、そんなの全部ひっくるめて運命!って感じだね!」


「だろ? その絵が、随分後になって産まれた

高祖母の手に入ったんだけどさ、

まあ、それまではやっぱり二人ともいざこざがあったんだよ。


20歳も離れてたら仕方ないことだけどさ、

それを助けてくれたのが、

あの絵の女の子らしいぞ」


「え~? あの女の子が?」


そう言うと、佐々木君はこくりと頷いた。


「ああ、そしてなんと、自分の事を一花と呼んだのも、

あの絵の中の女の子みたいだ。


高祖母も高祖父とくっつくまでは色々とあったみたいでさ、

高祖母の夢に現れては、

随分高祖母を勇気付けたみたいだぞ?


だから光の高祖母、後になって絶対的な確信があったみたいだ。

あれは絶対一花叔母さんだって。


妊娠したのが分かったとき、

夢であったあの女の子と同じ魂を感じたって」


「え~ そんな事って本当にあるんだ……


何だかもうそれって人間の域を超えたような経験だよね」


「一花叔母さんは凄く不思議な人だった……


本当にあの絵の様に花の良く似合う……


良く笑うというか、儚く微笑むんだ……


少女のような、この世の人では無いような……


そんな感じの人だった。


物腰は柔らかく、話方も優しく丁寧で……


自分には子供が出来なかったから

俺たちを自分の子供の様に凄く愛してくれて……


話してると、一花叔母さんに会いたくなってきたな」


そう言って佐々木君は少し涙ぐんだ。

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