第51話 合コンの誘い
“ハフ、ハフ、ハフ、ヒ〜、ヒ〜、ヒ〜”
僕は一生懸命走っていた。
“何で僕が……”
額から汗がダラダラと流れている。
時間は遡る事、3時間前。
僕はいきなり矢野君からラインを貰った。
“12時にホテルのカフェまで来い。
絶対に遅れるなよ”
最近僕は矢野君と連絡を取り合う様になった。
でも別に色めいた様な事は一切ない。
どちらかと言うと、
何でもない事に良く呼び出される様になった。
ホテルの前に着くと、
とりあえずは汗を拭いて身なりを整えた。
ドアまで歩いて行くと、
いつもの様にドアマンの高崎さんが出迎えてくれた。
「よ! 最近よく見かけるな!
バイトの方はどう?
学校はもうソロソロ夏休みに入る頃じゃ無いのか?」
僕はハアハアしながら、
「高崎さん! 今日も決まってるね。
それにしても暑いね!」
そう言うと、高崎さんはスマートにスッとドアを開けてくれた。
「有難う! 僕急いでるからまた!」
そう言ってハイファイブすると、
早足でカフェに向かって歩いて行った。
途中で立川さんと周防さんにぶつかりそうになった。
「ひゃっ、すみません!」
そう言って謝ると、
「おっ! 陽向じゃないか!
また呼び出しくらったのか?」
と立川君と周防君がそこに立っていた。
「立川君に、周防君、お疲れ様です。
今からお昼ですか?」
「俺たちはそうだけど、
お前は矢野に呼び出されたんだよな?
お前がここにくる時って、最近は大抵が矢野絡みだよな」
そう指摘され、
「いや〜、面目ない」
そう言って照れ笑いした。
あの日の醜態を彼らには曝け出しているので、
わりと事情を察知してくれる。
「そう言えば今度合コンするんだが、
お前も来ないか?
T大生の医学部生だぞ。
まだΩが何人か足りないんだ」
急にそう尋ねられた。
「僕ですか?
え〜っと……」
そう返事に困っていると、
「こいつも行くんだよ」
そう言って立川君が周防君の方を指さした。
「周防君って医学生?」
びっくりしながらそう尋ねると、
周防君は
「いや〜 恥ずかしながら……」
と頭を掻きながらそう返事した。
その姿が彼の謙遜さを物語っていた。
「凄いね! 周防君って賢いんだ!」
「いや、まぐれで受かったんですよ」
と彼は謙遜していたけど、
T大医学部にまぐれで受かるはずがない。
「な、だからお前も来いよ。
そしてほら、この前一緒にいたお前の後輩君の、
なんて言ったっけ?」
「本田さん?」
「そうそう、そんな名前だったな。
あの子も連れてこいよ!」
と立川君もしつこい。
でも周防君も、
「俺からもお願いします。
知り合いがいた方が俺も気楽だから、
是非長谷川君も来てください。
今回は俺のクラスメイトからしつこく誘われて渋々請け負ったけど、
数合わせで大丈夫だから是非!」
と言う事だったので、
断るのも気が引けたので、
「じゃあ、人数合わせと言う目的だけで……」
そう言い終わった途端後ろから、
「12分38秒の遅刻だ!」
と矢野君がやって来た。
後ろを振り向くと、
矢野君が鬼のような形相を僕に向けていた。
そんな矢野君にもすでに慣れっこになった僕が、
「君、細かいな〜
何その秒まで読み出すって、
四捨五入で10分の遅刻で良くない?
それにね、僕はちゃんと時間通りに来てたけど、
この立川君に捕まったんです〜」
と言ってやった。
矢野君が立川君達と実際に顔を合わせるのは初めてだ。
だから彼らの紹介をした。
「これ、立川君に周防君。
ここでベルボーイしてるんだ。
僕らと同じ歳だよ」
矢野君は立川君達をチラッと見ると、
「矢野です、宜しく〜」
とニコニコと挨拶を交わした。
矢野君がフレンドリーに挨拶を交わしたのにも驚いたけど、
その後の、
「俺もその合コン行ってもいいですか?
知り合いのΩを数人連れてくるし!」
と何と、僕が今誘われたばかりの合コンに参入しようとしたのだ。
「矢野君、部外者が何言ってるの!」
と僕は矢野君を諌めようとしたけど、
矢野君の
“Ωを連れてくる”
に釣られた立川君が、
「決まりだ! 宜しく!」
と矢野君と握手を交わしていた。
僕は彼らの軽すぎるやり取りに開いた口が塞がらなかった。
「じゃあ、日時と場所は後ほど連絡すると言う事で!」
そう言って連絡先を交換していた。
「じゃ、俺たちはここで」
そう言って如何にも、
“お前らとの用は終わりだ”
というような態度の矢野君に手を引かれて、
僕は立川君達に別れの挨拶も出来ないまま連れて行かれた。
「ちょ……、矢野君!
強引にも程があるよ!
急に呼び出したかと思えば、
今度は僕が誘われた合コンに参入する?
一体どうしたの?」
「一体どうしただ?!
お前は危なっかしいんだよ!
αとΩの合コンがどう言うものか知ってるのか?!
質の悪い合コンだったら誘発剤飲み物に混ぜられて回されるんだぞ!
願ってもないαにつがわれたら、お前の人生オジャンだぞ!
少しは危機感くらい持て!
いくらモテないからって合コンで相手を探すんじゃない!」
矢野君のそんな反応に僕は目を丸々としながら
「へ〜 僕の事心配してくれてるんだ!」
と、意外とでも言う様に言った。
でも、
「当たり前だろ!」
と言う、思いもしなかった矢野君の返答に、
僕は涙が出そうになった。
矢野君の言ってる意味は僕の欲しい意味ではなくても、
ここまで矢野君に心配される仲になれたことがとても嬉しかった。
でも矢野君の心配は無用だ。
僕の発情に他のαが誘われる事はないし、
ましてや他のαと番になる事も僕には決してない。
僕は矢野君を見ると、
「大丈夫だよ。
他の人に勧められた飲み物は飲まないし、
僕はいつもチョーカーしてるからね。
誰かと番になるって事は絶対にありえないよ!」
そう言うと、矢野君が、
「あれ? そう言えば俺のあのチョーカー……
何処に置いたっけ?」
とボソッと独り言の様に言った後、
「全くお前って危機感無いよな」
と両手を挙げた。
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