第34話 第二次面接
手からは冷や汗がダラダラと流れていた。
それぞれが、それぞれに制作した作品の前に並び、
緊張した面持ちで、審査員の声を今か、今かと待っていた。
今から数時間前にさかのぼると、
僕達一同はこの会社が所有するフラワーショップに連れていかれた。
僕たちは既に二次審査に付いて説明されていたので、
昼食の中休憩で僕たちはそれぞれに制作する作品の構想を練った。
だから僕が作りたかったものはすでに決まっていた。
ショップに着くと、自分の使用したい花を好きに使っていいと言われ、
僕は決めていた花輪を作るワイルドフラワーっぽい花たちを探した。
そして見つけた一つの花に手を伸ばすと、
またあの日の記憶が蘇った。
「ほら、これ……」
「え~何、何?」
僕は矢野君に差し出された一つの写真を受け取って眺めた。
「可愛いね。で? これは誰?」
それは小さな女の子が、
お花畑でニッコリと笑って写っている写真だった。
「それ、一花大叔母さんの小さい時の写真だよ。
この間偶然に本に挟まってるの見つけてさ、
お前に見せようと思っていたら忘れていた」
そう言われ、僕はマジマジと写真を眺めた。
彼女は頭に可愛くできた花輪を嵌めていた。
「うわ〜 何この可愛さ。
本当に人間?
フランス人形みたい!
それに矢野君が言った様に本当に花が似合うんだね……
この時で何歳くらい?」
そう言って写真の裏を見ると、
“一花 10歳
マサチューセッツの自宅にて”
と書いてあった。
「マサチューセッツ? え?
それってアメリカだよね? それが自宅って?」
「あ〜ほら、前に彼女の父親が母親を追いかけて
アメリカへ行ったって言ったじゃないか?
それから暫くそっちに住んでたんだよ」
「へ〜 そうなんだ。
なんだか矢野君の話を聞いてると
僕とはやっぱり次元が違うんだな〜って思うよ……
矢野君、本当に僕なんかで良いの?」
そう言うと彼は何を思ったのか分からないけど、
僕の頭をクシャッとすると静かに微笑んだ。
途端、
「始め!」
という声が部屋中に響いた。
第二次審査の始まりの合図だ。
“いけない、いけない……
またトリップしていたよ……”
僕は唇をきゅっと絞ると、
ショップから届けられた花に手を掛けた。
深呼吸をして目を閉じると、
あの日矢野君に見せてもらった
一花大叔母さんの写真を思い浮かべた。
“一花大叔母さん……
可愛かったな……
本当に花が似合って……
あの花輪は確か……”
僕は一花大叔母さんのはめていた花輪をイメージして、
一つ一つの花を丁寧に、丁寧に作り上げていった。
あの夏が終った後福岡に帰り、
何となく立ち寄ったアーケードを歩いていた時に、
今まで気にもしていなかった花屋さんがあることに気付いた。
僕は何かに導かれるようにフラフラとその花屋さんに入って行った。
するとショップの一角に
可愛らしい花輪が飾ってあることに気付いて
その前に立ちすくんでいた。
「何かお探しですか?」
そこの店員が声をかけてきた。
振り向くと、可愛いらしい女性が
ニコニコとして僕の後ろに立っていた。
「あの…… これ……」
そう尋ねると、
「リースをお探しですか?」
「え? リース?」
「はい、こちらの商品がリースですが……」
そう言われ、しっかりと花輪を見ると、
ちゃんとリースと書いてあった。
“そっか…… リースっても言うのか……”
「これって作るのは難しいんですか?」
「そうねぇ~ 人それぞれじゃないかしら?」
「僕にも作れますか?」
そう尋ねると、
「クラフトのクラスがあるのよ。
申し込んでみる?」
と言われた。
「クラス……ですか?」
「そうよ。リース作りに興味があるんですか?」
そう尋ねられ、
「興味……どうなんだろう?」
そう言うと、彼女は僕の事を
“変な客に声かけちゃったな“
と言う目をして見た。
僕は愛想笑いをすると、
「すみません、情報ありがとうございました」
と言って花屋さんを急いで出た。
施設に帰ると、
小学生高学年の清香ちゃんが花輪をしてかえってきた。
「清香! その頭!」
「あ? これ? 綺麗でしょう?
運動会のダンスで使うんだよ〜
今クラスで女子達が作ってるんだよ」
「自分達で作ってるの?
ちょっと見せてもらっても良い?」
そう言って彼女から花輪を受け取ると、
僕はマジマジと見入った。
生花ではなく造花だったけど、
恐らく基礎は同じだ。
「これ、作り方教えて!」
「プフッ……
どうしたの? 陽向お兄ちゃん、
好きな子でもできた?」
清香にはからかわれたけど、
丁寧に花輪の作り方を教えてくれた。
その時に僕は気付いた。
“僕はこんなにも花に興味が出て来ているんだ……
何時かは、花に携わる事ができたら良いな“
そして僕は今、自分曰く、会心の作、
花輪を前にして審査官の前に立っていた。
横目で他の人の作品をチラチラとみると、
如何にも芸術は爆発だとでも言うような、
超ビビッドなカラーとゴージャスな花で作った作品が、
自分の存在を主張するかのようにそこに並んでいた。
まるで有名デパートのフロントに飾ってもおかしくないような作品だ。
「え~ 長谷川君」
僕の名が呼ばれ、ドキリと心臓が跳ねた。
「は……はい!」
「君は何故この作品を選んだのですか?」
第一質問がそれだった。
僕は緊張に緊張をしていて、
暫く頭が真っ白になった。
すると、質問をした隣に座っていたもう一人の係の人が、
「大草原が見えて来そうな冠ですね」
とそう言われて、僕はその人の顔を見上げた。
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