第23話 頻繁に来るようになった場所

「やっぱりここに居たんだな」


生い茂るシダの葉を分けて、

矢野君がヒョイっと顔を出した。


その瞬間、僕の顔が緩んだ。


「矢野君!」


彼の名を呼んて微笑むと、

彼は直ぐに僕の隣にやって来て座り込み、

小鳥が啄む様なキスをたくさんして来た。


「くすぐったいよ〜

どうしたの〜?」


「いや、お前の顔を見たら……何となく?」


「え~ 何となく?


せめて、


好きすぎて〜とか?

カッコ良すぎて〜とか?


もっと色々あるでしょ~」


そう言うと、矢野君は肩をすくめて見せた後、

イタズラっ子のような顔をして僕に抱き着くと、


「陽向が可愛くて、

好きすぎて我慢できなかった」


と耳元でささやいた。


「ギャ~」


と叫んで矢野君をドンと押し返すと、

両手で耳を抑えた。


「矢野君、君のささやきは毒だって自覚ある?!

僕たちの一番最初のゴニョ・ゴニョ覚えてるの~?!」


と声にもならない声で口をパクパクとしていると、


「ハハハ」


と声高らかに笑った後、


「今日は早く仕事終わったんだな」


と食堂から持って来たのか、

おにぎりと飲み物を手渡してくれた。


「そりゃあ、明日休みだからね。

ちょっと頑張っちゃった!」


そう言ってガッツポーズを作ると、

矢野君が僕を見て微笑んだ。


「異様に元気だな」


「ふっふっふ~ 見て見て、これ!」


そう言って僕は買ったばかりのデジカメを矢野君の前にかざした。


「おっ、遂に買ったんだな。

ずっと欲しいって言ってたもんな」


「そうなんだよ~

ほら、皆勤賞にボーナスが出たじゃない!

もう僕嬉しくって!

安物だけど早速買っちゃったよ〜


早く使いたくって、使いたくって早速持ってきちゃったよ~」


そう言って僕は矢野君をパシャリと写した。


「お前、何いきなり写してんだよ」


そう言って矢野君は手をカメラの前にかざした。


そう言ったポーズも僕にとっては愛おしい。

一瞬、一瞬の矢野君のシーンをカメラに収めておきたかった。


「だって思い出だし!

次はホラ、いつ会えるか分かんないし……」


と、自分のセリフに少し涙ぐんでしまった。


この夏が終わった後の事を考えると、

どうしても不安になってしまう。


“遠恋になっても僕たちは大丈夫なんだろうか?


もしかしたらそのまま会えなくなって

自然消滅してしまうかもしれない……”


夏も終わりに近づくと、

そんな思いばかりが脳裏をよぎる。


そんな僕の心配を知ってか、


「心配するな。


お前が東京へ来れなかったら、

俺がちゃんと福岡までお前に会いに行くから」


そう言って矢野君は笑った。


最近は仕事が終わると、

矢野君に教えてもらったこの地……僕曰く、


“秘境の地” 


に頻繁に訪れるようになった。


ここに来ると、心が落ち着く。

ここへきては良く未来構造を瞑想したりしていた。


「ここね、凄く落ち着くんだ。

ビックリするほど虫もいないし、

ちょっと蛇が出たらって思うと怖いけど、

今まで出くわしたことないし、

ちょっと高いところに位置するせいか、

結構涼しいしね。


海から風が吹くと、

エアコン要らないし、

少し汗をかくと、水に足を付ければス~っと引いて行くし……


それに、誰も来ないってところがいいよね。


凄く静かだし……」


「だろ? 俺もここはお気に入りの場所なのさ」


そう言うと、矢野君は急に服を脱ぎだした。


「ちょ…… なにやってるの?!


こんな日も高いうちからやるの?

アオカン?!」


僕の慌てぶりに、


「アホか!


お前の頭はその事ばっかりだな。


ちょっと涼むだけだ。

どうせ誰も来ないし……


お前も脱いだら?

お得意だろ?」


と矢野君がニカッと笑った。


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