第15話 台風の中の僕達2

「ねえ矢野君、

君、本当にΩには興奮出来ないんだよね?」


「だからそう言っただろ?

何だよ? いきなり……」


「ごめん、僕ちょっとヤバイかも?」


「何だよヤバイって……」


「僕、ちょっとムラムラしてるんだけど……」


「は〜っ? それって発情期って事か?」


「へへへ〜 まあ、そうとも言うかな?」


「何、呑気にへへへ〜だよ!


お前、夏が終わるまで大丈夫じゃ無かったのか?」


「うん、そうだったんだけど……


矢野君の唇に触りたいって思った瞬間、

急に身体が熱くなり始めちゃって……


何でだろう? こんなの初めて……」


「何でだろう?って他人事のように……」


「そうだね〜


へへへ〜 ごめ〜ん」


「全く、お前ってマイペースだよな……


これまで襲われたりって無いのか?


お前見てると本当に世の中渡って行けるのかって心配になるよ」


「へへへ〜 ごもっともです〜」


「お前さ、前に…… 

もし発情期予定外で来るんだったら

好きな人か運命の番に出会った時って……」


そう言って矢野君が僕を見た。


「う~ん、そう思ったんだよねぇ~

ねえ、これって僕が矢野君の事、好きになったって事?」


「そんな事俺に聞かれても知るかよ!」


「だよね〜 へへへ〜」


そう言って僕は頭を掻いた。

でも心臓はバクバクと脈打って変な汗が流れ始めた。


「お前、本当に大丈夫なのか?」


「う〜ん、大丈夫じゃ無いかも?!


凄く君に触れたいんだけど……良いかな?」


そう言うと矢野君は途端に不安そうな顔をした。


“うっ…… 聞かなきゃ良かった……”


「そっか、矢野君は僕じゃダメか……」


そう思うと何だか凄く悲しかった。

それと同時に、そう思った自分に驚いた。


「イヤ、そう言う訳じゃ……」


矢野君は慌ててそう言っていたけど、

無神経に尋ねた手前、少し引け目さえも感じた。


「僕からフェロモンの匂いする?

矢野君は大丈夫?」


「だから俺はΩのフェロモンには反応しないって……」


「そうだね、大丈夫だよね。

僕ちゃんとお薬持って来てるから……


今から急いで飲むから!


懐中電灯ちょっと貸してもらえるかな?」


そう言うと、矢野君が懐中電灯を渡してくれた。


「お前は大丈夫なのか?

薬でちゃんと治るのか?」


「大丈夫だよ。

今まで薬が効かなかったって事無かったから」


そう言うと、自分のクローゼットに向けて歩き出した。


すると矢野君が僕の腕を掴んで、


「お前って未来の番に操を立てているタイプなのか?」


といきなり聞いて来た。


「え?」


「いや、ほら、一番最初は好きな人とって……」


彼の口からそんな質問が出てくるんのが可笑しくて、

クスッと小さく笑った。


「何? 女の子じゃあるまいし……


あっ、もしかして、矢野君ってそう言うタイプなの?


でももう経験あるんでしょう?」


そう言うと矢野君はそっぽを向いて、


「俺の過去はどうでも……」


とボソッと言った。


「ねえ、僕とやってみる?


僕は全然構わないよ。


僕の初めての人になってくれるの、

矢野君だったらいいかも!」


本気でそう思った。


「お前…… そんな簡単に……」


そう言いながらも矢野君は何かを決意した様だった。


「ねえ、教えてよ……

僕はどうしたら良い?」


そう言うと、矢野君は掴んでいた僕の手を取って自分の方へと引き寄せた。


彼は壁に背を向けて座ると、


「来いよ」


そう言って僕を自分の膝に跨らせ、


「お前、キスもした事無いのか?」


と尋ねた。


「無い!」


そう言うと、彼は持っていた携帯をベッドの上に置いた。

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