Endless Summer Night ~終わらない夏~
樹木緑
第1話 始まり
飛行場から外へ出ると、
思いもよらなかった熱風が僕の頬を殴った。
“さすがに熱いな~”
夏休み限定でやってきた常夏のリゾートは
バカンスを楽しむカップルや家族で賑わっていた。
もしかしたら良い出会いが……や
ひと夏の思い出を得るためにここに来たわけではない。
単に割のいいバイトが見つかったからだ。
それも交通費込みで。
皆が受験の追い込みに精を出している時に、
何を悲しくて高校3年生の夏休みにバイトをするのか?
それは凄く行きたい学校があったけど、
両親の居ない僕の経済状況ではどんなに安い大学でも、
とてもじゃないけど行けないからだ。
でも、絶対、絶対、僕はあの大学に入りたかった。
巷では
“お見合い大学”
と呼ばれる城之内大学に入るために……
この城之内大学の創始者はαの教育学者。
日本の教育課程に凄く貢献をした人らしく、
アメリカに渡った後そこで結婚して、
後に日本へ戻りこの大学を創立した。
なんでも、運命の番を持つ友がいたらしく、
彼らの経験にあやかり、
日本のαとΩはもっと自分達の性に則り、
効率よく番を見つけるべきだと言う校風がαとΩに多大な人気を得ている。
全国どころか、世界中のαとΩがこの大学を求めてやって来る。
でも最近はそんなこともあり、
競争率も日本でトップクラスのレベルになり、
T大を凌ぐ勢いだ。
偏差値はもちろんの事、
高校時代の色々な経験がものをいう。
また学費が目が出るほど安い。
もしかしたら超貧乏な僕でも、
少しバイトをして頑張れば、
奨学金と掛け合わせて行けるかもしれない。
そんな思いを抱きながら空を眺めると、
太陽がギラギラと僕の肌に突き刺した。
“太陽の位置が低いな……”
そう呟きながら額から流れる汗を掌で拭った。
その時、
「リゾート・サンシャイン・ホテル従業員の
長谷川陽向様~
福岡よりお越しの長谷川陽向様~」
と声がしたので声のした方を振り向くと、
僕の名前が書いてある紙を持った
長身のスラッとしたカッコいい男の子が僕の名を呼んでいた。
最初は同姓同名かな?と思ったけど、
行く場所も、出身も同じ。
「あの…… それって僕の事なんでしょうか?」
勇気を出して尋ねると、
そのカッコいい男の子は
“チッ”
と舌打ちして、
「何だよ、男かよ!
可愛い子が来るって言ってたのにあのやろ~」
とボソッと言ったので、
僕はムカムカと胸糞悪くなってきた。
「あの……?」
と尋ねると、
「もう皆乗り込んでお前を待ってるんだよ!」
そう来たので、
「え? お迎えが来るって聞いてないんですが……」
そう答えると、
「お前、契約書ちゃんと読んだのか?
迎えが来るって書いてあっただろ?
だから飛行機も皆時間を合わせて到着するように書いてあっただろ!」
と、乗り込んだ連絡バスには、
きっと全国から来たのであろう高校生、大学生らしき人達がぎっちりと乗り込んでいた。
開いていた席は一番前の2席。
僕は否応なく、舌打ち少年と一緒に座る羽目となった。
「あの……
君もここでバイト?
凄く条件のいいバイトだよね。
僕は福岡から来た長谷川っていうんだ。
君は何処から来たの?」
そう尋ねると、彼はまた舌打ちをしてムスッと黙り込んだ。
するとバスの運転手さんが僕たちのやり取りを聞いていたのか、
「従業員の皆さんは仲良くするよう決められているでしょう?」
そう助言してくれたので彼はまた舌打ちをして、
「矢野光! 高校3年!
東京から来ました~」
と面倒くさそうにそう言った後、
またムスッとしたので、
僕は仕方なく景色を楽しもうと首を外に向けた。
でも2-3分もすると彼も退屈になってきたのか、
「なぁ、なぁ、知ってるか?」
と尋ねてきたので、彼の話に乗ることにした。
「え? 知ってるって何をですか?」
「このホテルの創立の曰くだよ」
「え? 曰くって幽霊類の事ですか?
僕、幽霊って駄目なんです~」
そう言うと彼は声高々に笑って、
「違う、違う」
と僕の足をバシバシ叩いた。
「矢野君、痛いよ……
曰くって一体何なんですか?
有名な事?
皆が知ってることなんですか?」
「違う、違う、ここだけの話なんだがな、
このホテルの創立者、
もう番にメロメロのベタぼれらしかったんだけど、
その番の両親の想い出の場にホテルおったてたんだよ。
それでその名前を番の一文字からとってサンシャインって……
笑えるだろ?」
「へ~ よくそんな裏話知ってますね?」
そう尋ねると、彼は肩をすぼめて、
「俺も会ってみたかったな……」
そうぽつりと言った。
「でもこのホテルってもう始まって150年くらいたってるんですよね?
そうなると、もう老舗って感じですよね。
そうか~ そう言う裏話のあるホテルなんですか~
何だかロマンチックだね」
僕がそう言うと、彼はまた舌打ちをして、
アームレストに肘をついて目を閉じた。
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