第29話『剣術修業・2』

鳴かぬなら 信長転生記


29『剣術修業・2』  







 これをお使いください




 織部が差し出したのは袋竹刀(ふくろしない)だ。


 普通の竹刀に革袋を被せて漆で塗り固めたもの、おおよそそうだ。


 元の世界で、剣術の稽古と言えば木刀だったが、力加減ができなければ、けっこうな怪我をする。


 後に竹刀が発明されるが、竹刀と木刀の間に存在していた稽古用の刀で、鍔がないのが外見的な特徴。竹刀よりも当たりが穏やかだが、値段が高くてメンテナンスが難しい。


 

 つまりは、竹刀の高級品だ。




「剣術にも『侘び寂びの境地』をと、用意いたしました」


「剣術に侘び寂びか?」


 ブン!


 信玄が上段に構えて、豪快に振る。


「いささか軽い」


「試してみなければわからんな」


 信信コンビは素直には認めない。


「試してみよう」


 俺は実証的だ。


「「よかろう」」


 戦国の三雄が、木刀、竹刀、袋竹刀を持ち替えては試すことになる。




 カン! カン! カンカン!


「馴染みの手応えだ」


 木刀の硬質な音と手ごたえは、やっぱりシックリくる。


 パン! パン! パンパン!


「竹刀は祭りの景気づけにはいいかもしれん」


「諏訪湖の御神渡りの音に似ている」


 バシ! バシ!


「袋竹刀は音が濁る」


「侘び寂びと言われれば、そういう気もするがな」


「個人的には、毘沙門天の凄烈さにも似た木刀の響きがいいが」


「そうそう、響きといいますと……」


 織部が目を輝かせて割り込んできた。


「なんだ?」


「川中島の一騎打ちでは、謙信公の太刀と信玄公の軍配が『カキーン コキーン』と小気味よく木霊したと聞いておりますが、信玄公の軍配は、何で出来ておったのですか!?」


「ああ、あれか。ええと……南部鉄の一品であったか、明珍の業物であったか?」


「東映映画村の刻印があったような気がするが」


「謙信の兜こそ、眉庇の裏に大映のシールが貼ってなかったかあ?」


「東映? 大映? ひょっとして、お二人は……?」


「「本物だ!」」


「川中島では何度も戦ったからな、わしのも謙信のも武具は痛みが激しくてなあ……」


「映画屋の情熱とはすごいものであったぞ」


「ああ、もう大型時代劇は撮れないというので、時空を超えて持ってきてくれたんだ」


「大映の道具係りなど、大映倒産のあとは、こっちに住み着いて、最後までやってくれたなあ」


「そうそう、わたしの陣太刀など、道具屋の習慣で、あやうく竹光にされるところだったぞ」


「それなら、大魔神をお借りになれば、一気に有利に……」


「「それは反則だろ!」」


 反則も何も、大魔神はボークスとかいうフィギュア屋に引き取られているはず……俺も、なんで、こんなマニアックな情報を知っているんだ?




 ゴホン!




 咳払いに振り返ると、武蔵がいっそうの三白眼になってイラついていた。





☆ 主な登場人物


 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生

 熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま

 織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)

 平手 美姫       信長のクラス担任

 武田 信玄       同級生

 上杉 謙信       同級生

 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ

 パヴリィチェンコ    転生学園の狙撃手

 二宮忠八        紙飛行機の神さま


 

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