第6話『初めての朝』
鳴かぬなら 信長転生記
6『初めての朝』
食事は作ってやることにする。
あの市の様子では料理するなど望まんほうがいい。
なあに、父が亡くなるまでは、めったに城にも帰らず、好き放題に生きていた信長だ。
村や町で遊びまくっていたが、遊んでいるうちに、炊事洗濯なども一通りは覚えた。
俺の戦がそうであるように、民百姓の暮らしには無駄がなく、調理にしろ掃除洗濯にしろ効率的で面白い。
城の台所のように、トロトロと調理するのはもってのほかだ。
テキパキと作って、食べごろの時に箸を付けなければ、どんな馳走、珍味も台無しだ。
ドシン バタン
あらかた作り終ると、二階で音がする。
少し前に目覚ましの鳴る音もしていたので、やっと、妹……いや、従姉妹の市が起きだしたのだ。
ドシンバタンが収まると、ガサゴソの音に変わり、続いてバタン! ドタドタドタと階段を駆け下りる音。
起き抜けの顔で出てきたら張り倒してやろうと思ったが、さすがに洗面所に向かった。
バタン…………ジャーーゴボゴボ
ガシガシ ジャブジャブ ゴーーーー
トイレに行って、歯を磨いて、顔を洗って、ドライヤーで神を整える。
「お、おはよう!」
なんとか時間に間に合ってドヤ顔で挨拶だけはする。
どーだ、間に合ったろうと鼻を膨らませている。
「あれではウンコをしている時間がないだろ」
「ウ……そんなものしないもん!」
「肌が荒れるぞ」
「うっさい!」
「食え」
「う、うん……あ、ちゃんと出汁がとってある!」
「当たり前だ。出汁からとらねば、味噌に申し訳ないだろ」
「う……なんで卵焼き甘いの!?」
「辛い饅頭などありえんだろ」
「卵焼きはあ……」
「卵焼きは甘味(かんみ)だ」
「…………」
「やっぱり制服が違うな」
ゆうべ、転校先の学校を確認した。
俺は転生学院高校。
市は転生学園高校。
言いにくそうに『転生学園』と言っていた。『院』と『園』では評定平均で10以上の開きがある。
共に私学だが『院』は女子高で『園』は男女共学。
「残さずに食え」
「う、うん」
問いただしたいが止める。
朝から、ウジウジと言い訳めいたことを聞けば張り倒したくなるからな。
「~~~ヾ(^∇^)おはよー♪」
「「う!?」」
揃って驚いた。
いつの間にか、リビングのサッシが開いて、市と同じ制服が立っている。
「「熱田大神!?」」
「いっちゃんと同じ学校に行くことにしましたあ(^▽^)!」
「おまえ 神さまだろ!」
「いいじゃん、そーいう気分なんだから」
「えと、なんて呼んだらいいのかなあ?」
「あっちゃん……かな?」
「あっちゃんだと?」
「熱田大神だから……的な?」
「下の名前はなんだ?」
「あ、まだ考えてない」
「あっちゃんなら、ふつうアツコだよね」
「そか、じゃ、熱田敦子だ。よろしくね」
「う、うん」
「用意はいい? いっちゃん、転校して初めてだから、提出書類的な」
「あ、カバンに。待ってて、とってくる!」
「うん、ちょっと急いでね(^▽^)/」
「うん!」
ドタドタドタ……
「信長君」
「なんだ」
「『院』はね、男で転生した者しか行けないの。事情、分かってあげてね」
「であるか」
ドタドタドタ
「おまたせ!」
「よし、じゃ、いこっか!」
「うん」
「いっちゃん」
「え?」
「お兄ちゃんにご挨拶」
「起きた時にした」
「お出かけは別」
「あ、えと……行ってきまーす!」
「お、おう」
二人を見送って戸締り。
玄関を閉めて驚いた。
門柱の『ODA』の下に『ATSUTA』が並んでいたぞ……。
☆ 主な登場人物
織田 信長 本能寺の変で打ち取られて転生してきた
熱田大神 信長担当の尾張の神さま
織田 市 信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
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