第4話『転生ことはじめ・3』
鳴かぬなら 信長転生記
4『転生ことはじめ・3』
デフォルトにするわね(^▽^)/
熱田大神の声がしたかと思うと、衣装が変わった。
なんだ、これは?
一瞬驚いたが、すぐに情報がインストールされて合点がいった。
細身のジーンズに茜のカットソー、カットソーにははみ出るように木瓜の家紋と永楽通宝がプリントしてある。
左肩からか斜めに掛けたボディーバッグは足軽めいてはいるが、俺好みに機能的な装いだ。
いきなり、この出で立で転生していたら驚いただろうが、いったん小袖姿になっていたので混乱は無い。
場所も、表通りから入りこんだ生活道路で、人に見られることも無かったようだ。
『ここが信長君が生活する街ね』
「承知」
五十坪前後の家が立ち並んでいる。
ほとんどの家に、猫の額ほどの坪庭と駐車スペースが付いている。
足軽組頭ほどの者が住む中産階級の街だ。
天下人の信長が住むには物足りないが、一(はじめ)という弟との二人暮らしなら、こんなものだろう。
あの角を曲がると俺の家か……。
角を曲がった。
『いかがかしらあ?』
やや大きい。
軽なら二台は置けそうな駐車スペース、扉の無い門柱が結界のように立っていて、伴天連の文字で『ODA』と鉄の細工文字が打ってある。二階建ての屋根瓦は当世風のペラペラだが、安土の天守を偲ばせる青瓦だ。
「太陽光パネルが無いところがいい」
『あ、するどーい! あれって、いろいろ問題あるのよね』
「テレビアンテナはあるのか」
『元は伯父さんの家だから』
「伯父とは?」
『あ、設定だけ』
「掃除が行き届いておらん」
『三か月前から空き家だもん』
「庭の祠は何だ?」
『わたしの』
「熱田神宮があろうが」
『出張所』
「……であるか」
『ちょっと、わたしのこと嫌い?』
「きれい好きなのだ」
『むーー!』
「少し黙れ、神のしゃべりはみっともない」
さっそく大工を入れて手入れしなければと検分していると、背後から声が掛かった。
「さっさと開けろよ!」
振り返ると、変な奴が手下を従えて立っている。
ちょっとかぶいたナリはしているが、手下を含めて女子高生か中学生。
近所のバカどもか?
「なに、ジロジロ見てんだ、さっさと玄関開けろよ、ネーチャンよ」
「ネーチャン? 脅しで言ってるのか?」
赤の他人を「ネーチャン」とか「ニイチャン」と呼ぶのは下賤のチンピラと決まっている。
「ちげーよ! あたしは、あんたの妹だ! で、この家で一番偉えんだよ!」
「妹? 妹はおらん」
「んだと、この、腐れ信長あ!」
「腐っているのはお前だ、頭を冷やして自分の家に帰れ」
「妹だつってんだろーが! 織田信長の妹の一(いち)だ!」
「いち……だと?」
「ああ、この世で一番、何をやらせても一番の一だ!」
「ちょっと待て!」
「スマホなんか見るな!」
「『一』と書いて『はじめ』ではないのか?」
「な、なに言ってんだ! 信長の妹つったらイチに決まってんだろーが!」
「……そうか……そうであったか……アハ、アハハハハ」
「わ、笑うなあ!」
「これが笑わずにおれるか、アハハハ アハハハ……」
「く、くそ、もう許さねえ! お姉ちゃんだって許さねえ! みんな、このクソをたたんじまえ!」
「「「「「お、おう!」」」」」
ドシ! バシ! ゲシ! ドガ! ドコ! ボコ! ズコ! ドゴゴーン!
三回蹴り倒し、四回殴り倒すと、イチを除いて全員逃げ散っていった。
最後のはイチに飛び蹴りを食らわせた衝撃音だ。
パシパシ!
伸びたイチの頬に往復ビンタを食らわせる。
「答えろ。お前は……俺の妹の市なのか?」
「たった今、妹は辞めた……」
こんな恨みに満ちた目を向けられたことは無い。
無いが……この切れ長の美しい目はまごう事なき、妹の市ではあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます