第25話 海の中はやばい何がヤバいのかってっとやばい

 海の中――。

 呼吸、呼吸うう。

 喘ぐようにニーナの肩を叩く。

 え、ええい。まだるっこしい。彼女の口を塞ぎ、酸素を肺へ送り込む。

 お、思った以上にきついなこれ。

 口移しで息継ぎをするとなると、視界が完全に塞がるのだ。

 なので、ずっと口を引っ付けているわけにもいかず、ギリギリまで呼吸を我慢するわけだが……。

 余裕がない僕と違って、ちゅうに恥じらいを見せさくっとちゅうができないニーナに僕の意識が何度か飛びそうになった。

 

 海中だと喋ることもできないから、余計に僕の焦燥を掻き立てる。

 海はとても澄んでいて透明度も良好なのだけど、裸眼は辛い。

 慣れている人なら観察可能かもしれない。しかし、初めて海に潜る僕には難易度が高すぎたのだ。

 なんとか岸や海底は分かるからニーナに指をさしながら「見て見て」とするのが精一杯だった。


 上、上!

 と指で示しながら、彼女の唇を奪い酸素の補給を行う。

 

「ぷはあ……」

「ビャクヤさん、大胆……ワイルドなのも素敵です」


 海面から顔を出す。

 空気があるって素晴らしい!

 死ぬか生きるかを彷徨っていた僕とは対照的にニーナは頬に両手を当てていい気なものだ。


「必死なんだよ! こっちは。離すなよ。しっかりと僕を掴んでおいてくれよ」

「そんなあ。ビャクヤさんがしかとわたしを掴んでいるじゃないですかあ」


 ニーナはいやんいやんと首を振る。

 体を揺するんじゃないってば。手が滑ったらどうするんだよ。


「海底の様子はどうだった? 変わったところはあったかな?」

「何も変化がないです。崖の方に行ってみますか?」

「だな。このまま進めるか?」

「もちろんです!」


 移動だけなら海から顔を出したままの方がよい。

 呼吸の心配をせずに――ぐ、ぐううおおお。

 

「速い! 速すぎる! もっとゆっくり」

「はいい」


 振り落とされたらどうするんだよ。ニーナの泳ぎは水上バイクよりスピードが出ていた気がする。

 ゆっくりになったとはいえ、僕が地上を全力疾走するより速い。

 なので、あっという間に崖の下までやってきた。

 何だかここも懐かしい。最初の釣りは磯から投げ釣りをしたんだったよな。磯から少し歩いたところは崖になっているんだ。


「では、潜りますう」

「ま、待って、まだ心の……ぶ」


 せめて深呼吸してからにしてくれよ。ちょうど息を吸うところだったから、ニーナのほっぺを両手で挟み口づけをする。

 

『ビャクヤさん、あれ!』


 すげえ。水中だってのにニーナの声が聞こえるじゃないか!

 こっちは当たり前だけどブクブクとしかできない。

 ニーナが前を示してくれても、見えん。

 再び海面にあがってもらうことにしよう。


「ぷはあ……」

「見ないんですか?」

「見えないんだよ。どうなってた?」

「浮いてました!」

「おお! 深さはだいたいどんなもんだ?」

「そうですね。海面から15~20メートルくらいでしょうか」


 島は陸ごと移動するわけじゃなく、船のように浮くというわけか。

 砂浜の方は変化なしとニーナが言っていたけど、「島の一部」だからだと思う。

 どこからどこまでが島なのか砂浜の方も確認したおきたいな。できれば、ニーナ一人で行ってもらいたい。


「ニーナ」


 僕が何を言わんとしているのか察したニーナが悲しそうな顔をする。

 ……分かった。分かったって。


「砂浜の方も再度調査しよう」

「はい!」


 再び、窒息するかしないの瀬戸際で戦うことになる僕であった。

 

 ◇◇◇

 

「あんちゃん、大丈夫?」

「ぜえはあ……な、なんとか」


 陸地よ。君はなんて愛おしいのだ。

 砂浜の上に倒れ込み、荒い息を吐く。

 死ぬかと思った。何度か意識が飛んだよ!

 地上種は地上種らしく、陸地の上でいるべきなのだ。呼吸ができない海の中に行くものじゃあない。

 ニーナの悲しそうな顔にほだされてしまった自分が憎い。どうして僕はあの時、「引き続き調査をしよう」なんて血迷ったことを口走ったんだ。

 潜っても自分じゃ確認できないので、都度海面に浮上してニーナに聞き込みをした。

 

「飲む?」

「ありがとう」


 パックからヤカンを受け取り、ぐびぐびと水を飲む。

 気を遣って水を汲んできてくれたんだな。

 

「ふう。落ち着いた。ニーナ、協力してくれてありがとうな」

「いえいえー。楽しかったです!」


 ポッと頬を赤らめるニーナだった。

 「またよろしく」なんてことは口が裂けても言わないぞ!

 もう二度と体験したくない。海の中で生死をさまようのは、ね。

 

 ようやく落ち着いてきた。

 あぐらをかき、ヤカンを傾けて残った水を頭から被る。

 ぶるぶると首を振ってヤカンを砂浜の上に置く。

 

「分かったことを共有しよう」

「待ってたぜ!」

「はいい」


 島が移動するときは船のように海中から浮かび上がる。

 正確には地面と切り離される、といったところ。

 海面から深さ15-20メートルくらいまでが島の範囲で、崖の下のような深さが20メートル以上あるところだったら崖の途中で切れる。

 砂浜のように遠浅になっている場所だと、水深が15-20メートルくらいのところで切れ目が入っていた。

 海水ごと移動するのわけじゃなく、地面が動く。

 遠浅になっている部分は海の下に沈んでいるだけで、島の一部はあくまで陸地部分ってことだな。

 

「――というわけで、島は船のようなものだったってわけだ」

「ほええ。大きな船なんですねー」

「動力は? とか疑問が次々に湧いてくるけど、どうなっているのか仕組みはまるで分らない」


 そこでパックが右手をあげ意見を挟む。


「だったら、あんちゃん。ええと、本を読めば何か分かるかも?」

「確かに! 新しい文章が書きこまれているかもな」


 パチリと指を鳴らし、パックに笑顔を向けた。

 対する彼は気恥ずかしそうに鼻の頭をかく。


「今日のところは調査終了ってことにしようか。残りは食力確保の時間に当てよう。まずは釣りだ」


 竹竿は置きっぱなしにしたままだったな。


「あ、あのお。ビャクヤさん」

「ん?」

「そろそろ、わたしのブラジャーを」

「え、えええ。すまん」


 よくよく見て見ると、ニーナが一糸まとわぬ姿でおっぱいに腕を当てているじゃあないか。

 あぐらをかく僕の傍に彼女の貝殻ブラジャーが置きっぱなしになっていた。

 いつの間に、彼女のブラジャーをはぎ取ったのだろうか。まるで覚えていないんだけど……。

 彼女の様子にすぐに気が付きそうなものだけど、下半身がすっぽんぽん状態を見慣れているので、意識が向かっていなかった。

 ほいと彼女にブラジャーを手渡そうとして、手を止める。

 彼女から背を向けて、後ろ手に彼女へブラジャーを渡す僕なのであった。


※更新忘れてました、、そして、感想返信滞っておりすいません!

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